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【特集】

どうする? メンタルな問題
精神症状に対して内科医ができること

宮岡 等(北里大学医学部精神科)


 一般の身体科外来受診者のなかに,メンタルな問題を有する患者は少なくない.それが主な症状や問題でなく,身体疾患に合併している場合でも,適切に対応することで心身両面の治療が円滑に進むことが多い.一方,精神疾患の経過中に身体疾患を併発した患者の治療も問題となる.救急車が搬送先探しに苦労する,限られた病院でしか治療を受けられないなど,精神疾患患者の身体合併症問題はなかなか解決の方向に進まない.

 本特集は,筆者が身体各科を有する病院(北里大学病院)と比較的規模の大きい精神科外来と病床を有する病院(北里大学東病院)に勤務し,地域連携における紹介・逆紹介に力を入れるなかで,出会うことの多い問題をそのまま取り上げた.基本は「身体科の医師がメンタルな問題に早く気づくにはどうすればよいか」「気づいたら自分で治療するか,精神科医に依頼するか」「依頼する場合どのような説明がよいか」などであるが,何人かの執筆者には特に解決の難しい問題について執筆をお願いすることになった.

 加えて,最近特に気になっている点をここで挙げておきたい.第一は内科医による身体疾患治療薬の多剤大量処方である.それらの副作用としての精神症状や薬物相互作用は,精神科治療をしばしば難しくする.精神科治療の成否の一部は内科医の治療が鍵となるとも言える.第二は内科医による精神疾患の診断と向精神薬処方である.うつ病講習,認知症講習などが広まって,精神疾患を理解した気になりやすいが,ある精神疾患を診断するのに最も重要なのは,その疾患以外の精神疾患に関する知識である.また,向精神薬処方で重要なのは,効果よりもむしろ副作用を熟知していることだと考える.そして第三に「精神科医に紹介しても薬を増やされただけで何も良いことはなかった」という内科医の声をよく耳にする.ほかの医学領域も同様であろうが,精神医学も,主に統合失調症や気分障害の重症例については教科書があるが,内科医からよく紹介されるような比較的軽症の症例に関する適切な教科書がない.また,軽症例ほど治療で著しい効果が得られにくいとも言える.今後,精神医学に課された重い課題であろう.

 身体各科と精神科の境界領域における診断や治療は,重症な疾患を専門とする医師が主,そのほかの症状を担当する医師が従となって,連携して治療すべきことは自明である.専門と専門外の間で,医師が専門外まで治療し過ぎたり,専門領域もほかの医師に任せ過ぎたりしない治療が進められることを願う.