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特集

循環器薬
up to date 2015

木原 康樹(広島大学大学院医歯薬保健学研究院循環器内科学)


 循環器疾患で通院加療を行っている患者は本邦において3,000万人とも言われ,高齢化の進行に伴い今後さらに増加することが予測される.それら患者の大多数が実地医家の下で慢性管理されており,それぞれの循環器疾患の背景には複数の危険因子が潜んでいるのが実情である.高血圧治療ガイドラインJSH2014(日本高血圧学会)では,単剤少量でコントロール不良の患者に対してはエビデンスに基づき単剤の増量よりも多剤少量併用への移行を勧めている.高血圧のみならず脂質異常症や糖尿病あるいは虚血性心疾患や心房細動などの合併例も稀ではなく,関係諸学会のガイドラインに準じるとそれら危険因子の管理にさえ多種多様の薬剤が必要である.すなわち個々の患者において,想像を絶する投薬重積状態が常態化している.

 そのようななかにあって,これまでにない作用点を有するいくつかの循環器薬が新たに市販され,従来の薬物との使い分けや適応の相違などについても少なからず混乱が生じている.NOAC[新規(あるいは非ビタミンK阻害性)経口抗凝固薬]と呼ばれる薬剤の比較的低リスク(脳卒中予備軍)患者への適応拡大やワルファリンとの相克などがその事例に当たる.このような時代においては,各薬剤の特性や相互作用,あるいは限界を包括的に学習・認識し,副作用を回避するとともに,各自の処方が薬剤本来の効能を発揮できる環境を維持していることを担保することが肝心であると思われる.大半は長期慢性治療が前提であるから,患者の服薬アドヒーランスへの目配りも必須である.

 本企画では,「急性期治療」と「慢性期治療―日常遭遇する疾患」の章において,代表的な循環器疾患における薬物治療の現状をup to dateも交えてまず提示したい.次に「慢性期治療―しばしば遭遇する疾患」の章では,やや稀ではあるが実地医家が必ず遭遇する循環器疾患を挙げ,その疾患概念と治療方針について言及する.さらに「併存症と循環器薬」の章では,日常的に診る併存症としての糖尿病や慢性腎疾患などの存在が循環器疾患の慢性期薬物治療に与える影響や留意点について議論する.最後に「循環器領域における主要薬剤の使い分け」の章において,新規に登場した薬物を中心に,類似した薬剤の臨床使用を念頭に置いた比較を提示することにより,日常診療における混乱を回避する指針を示す.各項目はそれぞれのエキスパートが執筆しており,診療において必要が生じた時にはいずれの部分からでも参照できるようになっている.多忙な診療に追われる先生方を現場でサポートする一冊になると信じる.