今月の主題

高血圧診療
わかっていること・わからないこと

植田真一郎(琉球大学医学系研究科臨床薬理学)


 循環器内科や腎臓高血圧内科などの専門医でなくても高血圧の患者さんに遭遇することは多いと思います.そのときどのように対処するかについては日本高血圧学会のガイドラインがあります.高血圧の領域は臨床試験,臨床研究が多く行われていますので,ガイドラインは多くのエビデンスに基づいて作成されています.ある意味で高血圧領域はEBMを推進しやすいかもしれません.しかしそれだからこそ,の落とし穴があります.

 患者さんが多い,ということは一口に高血圧といってもその背景は多様であることを意味しますし,致死的な高血圧は多くありませんので本来はもっと長期的な予後に関する研究が必要なのですが,臨床試験,臨床研究は適切に実施されたとしても多様性への対処や時間軸に関してどうしても限界があり,高血圧の予後と適切な心血管イベント予防のための治療介入について十分にわかっていないことも多いのです.

 臨床研究の信頼性についても最近のCOX-2 阻害薬やRosiglidazoneに関する事件を知ると,単にこれまでのように人間(研究者)性善説に基づいて内的妥当性や外的妥当性を議論すればすむ問題ではなくなりつつあります.臨床研究の報告の仕方に関する不適切さに関する研究も進められています.寓話的な医療,市場に先導されたような医療を排除し,ほんとうにわかっていること,わかっていないことをなるべくはっきりさせ,わからないことに関しての臨床研究が適切に推進されるようにする必要があります.

 このような視点から今回の特集を編集させていただきました.本特集が研修医,一般内科医の先生方の高血圧診療の一助となれば,そして将来臨床的疑問からの真の医師主導型臨床研究が行われることに少しでも役立てば嬉しいです.編集にあたり,多くの高血圧,腎臓,循環器,神経専門医の先生方にご助力いただきました.改めて御礼を申し上げます.