今月の主題

一般内科診療に役立つ消化器内視鏡ガイド
-コンサルテーションのポイントから最新知識まで

緒方晴彦(慶應義塾大学医学部内視鏡センター教授)


「日本の医者は欧米の医者に比べて内視鏡が上手である」という話をよく聞く.間違ってはいないと思う.手先が器用だということもあるかもしれないが,要は好きなのではないかと感じる.まさに「好きこそ物の上手なれ」である.消化器病が専門で内視鏡の経験のない医師は皆無であろうし,学会でも内視鏡の手技に関するセッションは常に大盛況である.加えて,近年の内視鏡機器を中心としたテクノロジーの進歩はめざましく,画質の鮮明さや操作性の向上ばかりでなく,いわゆる内視鏡スペシャリストといわれる医師たちのたゆまぬ努力と工夫で次々と新しい技術が開発されている.

昨今の悪性腫瘍の治療は「低侵襲」がキーワードとなっており,かつては外科的治療の適応であった食道・胃・大腸早期癌の多くは内視鏡的治療がスタンダードとなりつつある.またバリエーションに富んだ処置具の改良は困難を極めていた多くの膵・胆道疾患への内視鏡的アプローチを可能にした.さらには21世紀に登場したカプセル内視鏡とバルーン内視鏡により,これまで内視鏡が届かずに光の当たらない「暗黒の臓器」と呼ばれていた小腸の疾患に対して,診断,治療の両面において大きな変革がもたらされた.

しかし,である.「お腹の具合が悪い」と言って来院する多くの患者を最初に診察する一般内科医にとって,これらの高度先進医療の知識を吸収することも重要だが,それ以上に知りたいことは,自分の患者がどのような状態であれば内視鏡検査を受けるべきなのか,あるいは受けるべきでないのか,そのタイミングは,その後のフォローはどうすべきかなどといったことではないだろうか.実際,前者に関しては数多くの雑誌で紹介されているが,後者につき丁寧に解説した医学書はあまり見かけない.今回,本特集を企画するにあたり編集委員の先生方からいただいたリクエストは,一般内科医や研修医の持つ消化器内視鏡検査に関する基本的な疑問に答えられるような内容にすることと,専門性の高い項目においてはできる限り平易な記載にすることであり,執筆者の先生方にもその旨は十分に御理解いただいたはずである.また,座談会のテーマも内視鏡検査を依頼する側と施行する側の双方の医師がそれぞれの立場からクロストークし,本稿で記載しきれないような隙間を埋める内容を中心に,さらに近年話題の経鼻内視鏡についてそのピットフォールも含めて御紹介いただいた.

消化器内視鏡の知識をわかりやすく紹介した本特集を御一読いただくことで,明日からの診療に少しでも役立つことができれば幸いである.