今月の主題

循環器薬の使い方2009

磯部光章(東京医科歯科大学大学院循環制御内科学)


循環器疾患の診療の進歩は急速である.最近は冠動脈治療でのステントや不整脈治療におけるペースメーカーや除細動機などのデバイス治療が普及してきた.不整脈に対するアブレーション治療も増加の一途である.心不全に対しても再同期療法や人工心臓の普及など10年前には予想もしなかった展開があり,治療の選択肢が拡がっている.しかし,そのなかにあっても,心血管疾患の治療の基本が薬物療法であることに今も昔も変わりはない.いかに症例が増えているとは言っても,侵襲的な治療やデバイス治療を受ける患者は一部であり,またどのような先端医療を受ける場合も内科的薬物療法がその前提となり,併用で治療が進められるのが常である.

心不全,高血圧,動脈硬化,不整脈などの慢性疾患は,生活習慣とともに加齢に伴って進展していくものであり,自然治癒や根治ということが期待し難い疾患であることから,薬物治療は長期間に及ぶ.高齢化に伴って患者数は増加の一途であり,そのため薬物療法に関わる医療費も群を抜いて多く,日本の総医療費の約四分の一が循環器疾患に費やされているとされる.

内科以外の臨床医も循環器疾患をもつ患者の診療をする機会は少なくない.したがって内科医はもとより,どの領域の臨床医であっても循環器領域の薬物療法は基本的な知識として重要である.特に同じ疾患に対しても多様な治療の選択肢がとれるようになった現状で,重要なことは大規模臨床試験でのエビデンスを知ることと同時に,個々の薬物治療の特質を知り,個別の患者にそれをどう応用するかを考える技術ではないかと思われる.

臨床医は日進月歩の薬物治療の進歩のなかで,循環器治療薬の最新情報を常に頭に入れ,最善の治療法を選択する努力を怠ってはならない.本号の特集には研修医,一般医家,諸領域の専門医が明日からの診療に役立つよう,循環器薬物治療について最新,最先端の知識が満載されている.本特集を通読し,また必要に応じて個別の記述を参照することで,より適切な薬物治療が行われる助けとなることを願っている.