今月の主題

理解しよう! 下痢と便秘

小林健二(東海大学総合内科)


 下痢や便秘といった便通異常は,消化器内科専門医のみならず,内科医が日常診療でよく遭遇する症候である。ややもすると,これらの症候に対して対症療法ですませてしまいがちである。実際にself‐limitedな疾患が多いため,このような対処で済むことが多いのも事実である。しかしながら,それでうまくいかないときに,そこから先をどうすればよいのか途方に暮れてしまう場合が少なくないのではないか。ある医師は,病態の把握や検査前確率の推測などはそっちのけで,手当り次第検査をオーダーするかもしれない。またある医師は,漫然と有効でない治療を続けて患者の状態を悪化させるかもしれない。このような対応をしてしまうのは,ひとくちに「下痢」,「便秘」といっても,それらの便通異常が非常に多彩な疾患で起こり,その病態もさまざまであるため,どのようにアプローチしたらよいのかを整理して理解されていないからではないかと考える。例えば,便検査ひとつをとってみても,適切に検査がなされれば,非常に有用な情報を得ることができる。だが,排泄物であるためか,便の検査は敬遠されて後回しとなり,血液検査や対症療法が行われることが多く,診断に至るまで回り道となることも少なくない。

 今回の特集では,研修医,一般内科医が遭遇する機会が比較的多いと思われる下痢と便秘の病態を取り上げ,第一線で活躍される臨床医の方々にそれらに関するエッセンスをわかりやすく解説していただいた。そのなかには,単純な下痢・便秘から,特殊な病態で起こる便通異常までが含まれる。特に,さまざまな治療に伴う便通異常は,内科医が多く遭遇する問題であり,治療薬の副作用を最小限にとどめる,あるいは服薬のコンプライアンスを改善するために,正しい対処法を知っておくべきである。また,便通異常を伴う疾患のうち,判断を誤ると,患者のアウトカムに重大な影響を与えうるものも取り上げた。

 下痢にしても便秘にしても,原則となるアプローチのしかたを理解してしまえば怖いものはない。今回の特集で学んだことを日頃の臨床で生かしていただければ,整腸薬や止痢薬,あるいは下剤の処方をワンパターンで行うレベルから卒業できるものと信じている。

 なお,本特集では「急性下痢」を発症から4週間以内の下痢,「慢性下痢」を発症から4週間以上持続する下痢と定義した。特にことわりがないものは,この定義に基づく記載であると理解していただきたい。