今月の主題

皮膚から見つける内科疾患

宮地良樹(京都大学医学部皮膚科)


 最近の高度先進医療病院における内科診療は機器診療とチーム医療が必須となり,特にインターベンションを伴う内科領域では極端に言えば一人では何もできない状況になりつつある。しかし,いつまでも最先端の急性期病院で診療を続けるのはごく一握りの内科医で,多くは開業医あるいは一人医長として実地診療や地域医療に対峙することになる。

 私事で恐縮だが,先日軽い胸痛を覚えたので,循環器専門医を受診し,かなりの検査をして事なきを得たが,診察時に主治医は画面上の検査所見や画像をくいいるように見ていたが,結局,私に指一本触れなかったのでいささか驚いた。そのあと,別の生活習慣病で昔のレジデント仲間の内科専門医に診てもらう機会があった。彼は現在,市井の開業医であるが,私を目の前に座らせて,型どおり指先から顔面頸部まで触診して,頸部で指が止まった。「甲状腺腫がある」というので早速エコーで確かめると,直径2cmほどの甲状腺腫が見つかった。自分で嚥下を繰り返してもうまく触れることができないほどだった。「レジデントにもこのくらいの腺腫は見つけてほしいんですよ」と彼はこともなげに言った。これも良性と判明したので休心したが,受診の愁訴とは無関係な,しかし内科学の理学的診断を的確にしかも忠実に行う彼をみてチーフレジデント時代の彼を彷彿させた。ここに内科医のロールモデルがあると思った。

 皮膚科診断学は究極の肉眼画像診断学である。病理診断に顕微鏡は使用するが,基本は五感を駆使して機器を使用せず,一人で診断することが多い。内科医にも,ぜひこの皮膚からの一次情報を診断に役立ててほしいと思う状況にしばしば遭遇する。過日,ある老練な内科医と講演会でお会いしたが前額に明らかな基底細胞癌があったので,切除を勧めた。じん肺と診断されていた患者さんに強指症があることで強皮症と診断できたこともある。機器を使わずに誰でもできる皮膚の視診・触診をもっと活用すれば,さらに合理的に迅速に最終診断に至ることが可能ではないかと思う。

 今回は「皮膚から見つける内科疾患」というテーマで企画した。皮膚科医からの珠玉のメッセージを一つでも明日からの日常診療に活用していただければ幸甚である。