今月の主題

血液腫瘍はどこまで治し得るのか

杉浦 勇(豊橋市民病院血液内科)


 本特集のテーマは「血液腫瘍はどこまで治し得るか」である。血液腫瘍の治療に外科的アプローチはほとんど必要がない。したがって,このテーマは血液腫瘍を内科的に治し得るかという問いに等しい。血液腫瘍が内科的治療で治し得るのは固型癌に比して抗癌剤に格段と高い感受性をもつ特徴に基づく。血液腫瘍が特集に取り上げられても,この血液腫瘍の特異性にかかわるテーマが取り上げられたのを目にしない。

 本特集のメインパーツは「治癒可能な血液腫瘍」である。この章では治癒を目指し得る疾患を取り上げたが,血液腫瘍の主だったものが含まれる。これらの治し得る疾患と対比させる目的で,「長期コントロール可能な血液腫瘍」では治癒と同等に近い効果が期待し得る疾患を,「治癒が期待できない血液腫瘍」では現在でも治療方針の標準化さえできていない疾患を解説した。ただし,血液分野では新規治療法の臨床への投入が盛んであり,この並びも近い将来変わり得る。治癒し得る疾患別に各論を配置することはユニークであると思うが,その前には,型どおり,各論を理解するために必要な診断,治療法の総合的解説を配置した。診断も治療も多彩で革新的であることが理解できる。

 テーマがユニークであることに加えて,読者層を強く意識することに留意した。本誌「medicina」の読者層を考えれば当然であるが,対象が血液専門医でないこと,特に学生,初期研修医,後期研修医あるいは一般医であることから,日ごろ研修医の指導医的立場にある方々を中心に執筆を依頼した。「一般医が行う血液腫瘍患者へのプライマリケア」では,それまでの難解となりがちな記述から開放されて気軽に読めるものを配置した。最終項には,血液内科医を目指す若手の参考となるように血液内科の現状と血液内科のおもしろさを解説していただいた。

 血液内科診療にはカメラやエコーなどの高額で大掛かりな道具はなく,わずかに骨髄穿刺針と生検針があるのみである。手技を見て学習するより知識を身につけ理解する学習が必要である。自ら考え自ら診療するまでには多くの基本的知識を身につけることを要する。血液内科には何らかのきっかけがないと興味をもてないし,興味をもっても臨床でおもしろいと思えるまで時間のかかる取っ付き難い専門科である。本特集が研修医の手軽な教科書になり,早く自ら考えて診療できるようになる手助けになればと期待する。当院には毎年20名の初年度研修医が4週間の血液内科ローテーションを行い,内科に入れば後期研修で3カ月のローテーションを行う。この特集を教科書として大いに利用するつもりであるが,他の研修施設でも同様の使われ方がされることを期待する。

 最後に,私は血液内科ほど内科的な専門科はないと思っている。病変はあらゆる臓器を巻き込み,問診,診察,採血検査,一般的画像検査だけで診断し,治療も薬物・放射線治療が中心である。血液腫瘍の診療を通して内科診療の基礎も身につけていただきたい。