今月の主題

抗菌薬を使いこなそう! -実地臨床での正しい選択と投与法

藤本卓司(市立堺病院総合内科)


 現在,感染症の分野でも多くのガイドラインが発表されている。医師は我流ではなく標準化された医療内容を実践するよう心がけるべきであるが,既存のガイドラインの多くは患者背景,一部のバイタルサイン,検査結果などによって患者をカテゴリー分けし,抗菌薬の選択・投与法をあまりにも単純に図式化しすぎてはいないだろうか。医師は患者をどの枠に当てはめるかという発想になりがちで,起炎微生物をつきとめる努力が不十分のまま抗菌薬を選択する傾向が見受けられる。いつもエンピリックに抗菌薬を決定するのでは,結果として不必要に広域スペクトラムの薬剤が用いられることが多く,やはりよい感染症診療とは言えない。

 本特集では,臨床医が「一つひとつの症例ごとに,臨床的な論拠をもって抗菌薬を使いこなすことができる」ことをテーマとした。ガイドラインやSanfordのガイドなどの内容は理解しつつも,あくまでも目の前にいる患者ごとに臨床的に有用な情報を入手しながら感染症診療を進めるべきである。まず問診と身体診察による感染症の正しい診断が基本であり,グラム染色や培養検査など起炎微生物の診断に直結する検査の理解も不可欠である。抗菌薬や感染症の各論は,重要なポイントを整理して頭のファイルに入れておき,実際に使いこなせることが大切である。この特集では網羅的な記載ではなく,日常臨床に必須の知識を抽出し,印象深く記載されるようにお願いした。

 感染症診療がエンピリックで無味乾燥なものではなく,多くの情報を総合的かつ立体的に組み合わせて行う,きわめて論理性に満ちた作業であることが,本特集を通じて明らかになると思う。