今月の主題

ブレインアタック2006 -t-PA時代の診断と治療

山脇健盛(名古屋市立大学医学部神経内科)


medicina」誌では,約3年に1回,「ブレインアタック」の特集が組まれている。その時々に新しい進歩が紹介されているが,前回(2003年7月号)の「ブレインアタック―超急性期から維持期まで」と題した特集以降に,脳卒中診療におけるエポックメイキングともいえる大きな進歩が二つ挙げられる。「脳卒中治療ガイドライン2004」の刊行と,発症3時間以内の超急性期脳梗塞治療薬としてtissue-type plasminogen activator(t-PA)が認可されたことである。

 今回,この二つの大きな出来事を中心に特集を組ませていただいた。

 2004年3月,わが国で初めての脳卒中関連5学会による脳卒中治療ガイドラインが発表された。本ガイドラインは,脳卒中一般,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,リハビリテーションの5つの大項目から構成されている。ガイドラインとは,日常診療における問題点について参考とするべきものであり,決してこのガイドラインを開けば誰でも同じように治療ができるとは限らず,個々の臨床家の裁量権を規制するものではない旨が強調されており,そのことを十分に熟知しておく必要がある。今回このガイドライン作成に関わった人たちにその概要と問題点について解説いただいた。

 そして,2005年10月には,米国に遅れること約10年,待ちに待ったt-PA静注療法が発症3時間以内の超急性期脳梗塞治療法として認可された。しかし本治療法は頭蓋内出血を起こしうる両刃の剣の治療法であることを認識しておかなければならない。本治療法を行うにあたっては,日本脳卒中学会より厳格な治療指針が発表されており,それを遵守しなければならない。t-PA静注療法は,脳卒中診療医のみでなく,研修医,一般内科医,プライマリケア医にとっても大きな関心が寄せられている。今回の特集では,半分近い誌面をt-PA静注療法およびその関連項目に割かせていただいた。いずれも第一線で脳卒中救急診療にかかわっておられる人たちに執筆をお願いした。t-PA認可からほんのわずかの間に無理を言って執筆いただき,この場を借りて深謝する次第である。

 脳卒中診療においては,急性期治療のみでなく,リハビリテーション,慢性期および維持期治療,再発予防,一次予防などもきわめて重要であることは今さら言うまでもない。今回は誌面の都合でこれらはごく一部のトピックスに限らせていただいたことをお断りする。