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Case Study 診断に至る過程

第4回テーマ

病歴,そして身体所見

松村正巳(金沢大学医学部付属病院リウマチ・膠原病内科)


 さて,今回の患者さんです。

病歴,そして身体所見

34歳,男性
主訴:発熱,両膝関節炎
現病歴:受診の18日前から発熱と両膝の痛みが出現し来院した。5年前に初めて,左の膝関節炎を患った。他院の整形外科で膝の関節にたまった水(関節液)を抜いてもらって,関節炎は消退した。その後は症状がなかったが,13カ月前に発熱と左膝関節炎が,10カ月前には右膝関節炎と右足関節炎が出現した。いずれも他院の整形外科を再び受診したが,診断はつかなかった。そこで行われた血液検査の結果はWBC 10,100/μl,CRP 6.78mg/dl,リウマチ因子は陰性であったという。3カ月前には右の手関節炎が出現した。今度は他の病院を受診したが,やはり診断はつかなかった。いずれの関節炎のエピソードも非ステロイド系消炎鎮痛薬の内服で,数日から数週で緩解した。よくよく話を聞くと,患者さんは症状に一定のパターンがあるという。最初に咽頭痛が出現し,2~3日後に38°C程度の発熱が認められる。そして4~5日後に関節炎が出現するという。さらに,下肢に圧痛を伴った皮疹も毎回出るという。視力の異常を感じたことはなく,口腔内や陰部にアフタらしきものが出たこともないという。
既往歴:関節炎以外には特記事項なし。
家族歴:特記事項なし。
嗜好:たばこは吸わない。お酒も飲まない。
職業:会社員
ペットは飼っていない。
身体所見:血圧108/62mmHg,脈拍78/分,整,体温36.2℃。眼,耳,鼻,口腔に異常所見はない。リンパ節腫脹もない。呼吸音,心音に異常なし。腹部にも異常所見なし。両膝に熱感,圧痛,腫脹を認める。右下肢の膝の下方に径5cmの圧痛を伴った結節状の紅斑を2カ所認める。陰部に異常所見なし。

 いかかがでしょうか。まず病歴,身体所見から,問題点を重要なものからすべて挙げて鑑別診断を考えてみたいと思います。検査をオーダーする前に,どこまで診断に迫ることができるかチャレンジしましょう。

プロブレムリスト

  1. 繰り返す急性多発性関節炎
  2. 下肢の結節状の紅斑
  3. 発熱
  4. 咽頭痛

 急性多発性関節炎をきたす疾患から鑑別診断を挙げると以下の疾患が考えられそうです。

[memo 1] 急性多発性関節炎をきたす疾患1)

関節リウマチ,Sjögren症候群,サルコイドーシス,Behçet病,反復性多発軟骨炎,Henoch-Schönlein紫斑病,Wegener肉芽腫,結節性動脈炎,高安病,ウイルス感染-パルボB19,高脂血症性関節炎。白血病,結節性紅斑,側頭動脈炎,血清病,脂肪織炎,Whipple病,回帰性リウマチ

 プロブレムリスト「2。下肢の結節状の紅斑」が存在することを併せて考えるとmemo 1「急性多発性関節炎をきたす疾患」のなかから,鑑別診断として以下の順に鑑別を挙げました。

鑑別診断

  1. サルコイドーシス
  2. 結節性紅斑
  3. Behçet病

 それでは検査に移りましょう。以上の考察をもとに検査としては以下の項目をオーダーしました

オーダーした検査

血算,血液像
血液生化学
検尿
胸部X線写真
眼科医コンサルテーション

 さて結果は?

(つづきは本誌をご覧ください)

参考書
1)上野征夫:関節痛と関節炎,単関節,多関節からの鑑別:リウマチ・膠原病診療ビジュアルテキスト,pp6-10,医学書院,2002


松村正巳
1986年に自治医科大学を卒業し,石川県立中央病院でローテート研修後,奥能登,白山麓など県内諸国巡業の旅に出ました。数年前にLawrence M。Tierney先生に出会ってから,仕事上の目標が大きく変わってしまいました。病歴と診察でどこまで診断に迫ることができるか修行中です。