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第16回テーマ

内科ローテーションで何を学ぶか?
検証!新医師臨床研修制度(中編)

出席者(発言順)
前野哲博(筑波大学附属病院・総合臨床教育センター)〈司会〉
鳥居秀成(慶應大学病院・眼科,横浜市立市民病院研修修了)
下山祐人(東京女子医科大学・循環器内科,湘南鎌倉総合病院研修修了)
石丸裕康(天理よろづ相談所病院 総合診療教育部)


前号よりつづく

研修医はどのように内科ローテーションをしたか?

前野 新しい医師臨床研修制度では,すべての研修医が内科ローテーションを行いますが,指導医にとっては,特に内科志望者以外に,何をどこまで教えるかということは大きな悩みです。

 そこでまず,内科のローテーションではどういうことを学んだか,またはどういうつもりで回ったかを,研修を終了されたばかりのお2人にお聞きしたいと思います。

鳥居 では,「内科志望者以外」ということで私からお話ししますが,横浜市立市民病院の内科では,研修医に事前に質問紙が配られまして,内科でどのようなことを勉強したいかを書き,それに対し面談があります。それが自分のモチベーションを上げるという点でよかったと思います。特に糖尿病や高血圧の患者は眼科に必ず来ますから,高血圧と糖尿病の管理はある程度身につけたいということを書きました。膠原病もそうです。やはり眼科に関係したものを診ていきたいと思ったので,内科の先生も,そのような症例に関しては一生懸命教えてくださいました。

 研修医のニーズがわかっていると,指導医側としても教えやすいのだと思いますし,自分たちも,勉強したいと思ったことがきちんと勉強できたので,そのシステムはよかったと思っています。

前野 研修医が書いたことは,指導医のあいだでは共有されていたのですね。

鳥居 そうですね。

研修する側に目的意識が必要

前野 下山先生はいかがですか。

下山 湘南鎌倉総合病院では,総合内科がいちばん大きい内科部門としてあり,一般内科外来はそちらで行い,消化器科,糖尿病科,腎臓内科-腹膜透析などもしています-,血液内科とが,総合内科グループをなしています。それとは独立しているのが,循環器科,脳卒中科です。脳卒中科というのは,いわゆるストロークケアユニットで,脳血管内科,神経内科出身の先生が,脳血管内治療を中心に行っています。あまり他の施設にはないと思います。

 内科系には,大きくはその3つのユニットがあるので,研修医は,選択ローテーションで選ばなければ循環器と脳梗塞,脳出血,くも膜下出血に関しては学ぶ機会が,まずありません。また,それぞれの科の先生で,指導情報を共有しているわけではないので,「こういうものを学びたい」という目的意識をもっていても,「これについて質問しよう」と思わない限りは,ただ仕事をこなして帰るだけということになってしまうことがあります。これはあまりよくない点ですが,こういうことは私が研修した病院に限らず,多くの病院が抱えている問題ではないかと思います。

将来の進路を念頭に初期研修でしか学べないことを学ぶ

下山 私の場合どのように研修したかというと,将来は循環器内科にいくぞ,ということを2年目の最初に決めたので,内科ローテーションの前に,循環器科はあとで死ぬほどやるからあえていまはやらないという選択をして,1か月に6回ぐらい,ERといって夜の救急外来の当番があるんですけれども,そこへ来る循環器疾患の患者さん以外は,循環器を診ていません。

 私は内科を必修と選択とあわせて8か月選んで,脳卒中科を2か月選択し,これで(循環器以外の)全部の内科をざっと見ることができたかなと考えています。そのなかから,循環器疾患に関係があるところとか,トピックとか,動脈硬化に関係のあるところだけを拾っていって勉強するようにしました。

自分がしっかり学べているかという不安

下山 来る患者も,症例も膨大なので,何かテーマを絞らないと,とてもじゃないですが全部はやれませんので,夜の救急外来で一般的なところを学んで,昼の内科では自分の決めたテーマに沿って勉強するように心がけました。ですから,患者さんのプロブレムも将来役に立つようにというつもりで拾って治していくというふうにしました。指導医の先生が導いてやろうということで教えてくれたという環境ではなかったので,自分でやらざるを得ないところがありました。

 そのなかでできることをやっていったわけです。循環器疾患でも,できるだけ循環器の先生に聞くようにして,聞ける先生にはどんどん聞いて…。ただ,それでほんとうに学べたかどうかというと,不安なところもありました。たまにこうやってほかの病院の研修医の先生と話してみて,「いやぁ,負けたなぁ」とかって“ひとり反省会”をして,「また勉強しよう」と思ったりする。そんな感じでやってきました。

 だから,どこかで交じり合う場を確保することが自分にとっては有効だったのと,意識するのを忘れると自分に負けてしまいそうなので,そこのところは,すごく気を張っていてつらかったなという思いもあります。

初期研修時にEBMを身につける

鳥居 研修医は,いま下山先生が指摘された問題に絶対にぶつかると思うのですが,横浜市立市民病院で臨床研修の責任者をされていた大生定義先生は,EBMをしっかり指導してくださり,例えば『UpToDate』をうまく使いながらやっていってほしいと,研修医にも強調していましたし,自分たちも実際にそのようにしていました。

前野 EBMというのは行動指針,Current Best Evidenceを用いながら,目の前の患者に対してベストの医療は何かを模索するという生涯教育の姿勢でもありますから,それを初期研修のときからきちんと習慣づけられるように教育を受けたというのは素晴らしいことだと思います。

 いま話をうかがって,2人とも自分たちなりに働いた環境のなかできちんと目標を絞り込んでいますね。ローテーションする診療科は,将来の専門分野に関連が深いところもそうでないところもあると思いますが,同じ研修でも目標をもって研修に臨み,そこに研修の意義を見いだすかどうかで,研修のおもしろさはすいぶん違ってくるのではないかと思います。そういう意味では,お2人とも,やりがいを見いだすのがすごくうまいと思います。

自分は医師として認められる水準にいるのだろうか?

下山 一つ気になるのは,この制度が,ヨーイドンでスタートして,私たちが初年度だったわけですが,2年間やってきて,はたして自分のやってきた研修は大丈夫なのかな,少なくとも偏差値50よりも,1でも,2でもいいから右のほうにいるのかなということを不安に感じています。この制度ができて,全国的にある程度同じような研修を始めたということは,すなわち医者の実力が比較できるようになったということでもあります。自分は医師として認められる水準にいるのだろうかということを考えてしまいます。

前野 石丸先生。指導医側として,どうですか。

石丸 自分が受けてきた研修もそうですが,私の天理よろづ相談所病院にはOBがたくさんいて,これまでもだいたい同じような制度で回っています。

 例えば,皆が(将来)内科をやるとは限らないですし,それこそ眼科へいった人もいるし,心臓外科へいった人もいるしという環境で,あとから振り返ったときに,もちろん皆さん,目的意識をもって「これを学ばなアカン」「これはこのレベルまで」「これはこういうふうにして…」というのがあると思うのですけど,10年経って振り返ってみたら,そのときに学んだ知識や技術がどれほど今の医師としてのあり様に影響しているかというと,それほど大きくはないのではないかと思うのです。例えば,眼科へいったらIVH(中心静脈栄養カテーテル)を取ったことなんか,関係なくなってきますよね。

内科研修で最低限学ばなければならないこと

石丸 では,何が残るのかということを考えることがあります。私は,内科の研修でいえば,最低限学んでもらわなければいけないことというのは,患者さんから病歴・身体所見をとり,基本的な検査とあわせて問題点を抽出し,必要であれば教科書や他の医師の助けを借りて方針をたてていく,という基本的プロセスを身につけてもらうことにあると思います。

 しかし,よその科にいくと,そういうことを強調される機会は少ないのではないでしょうか。

 ですから,内科では,問題解決の基本を学んでほしいと思うのです。医療に対する姿勢とか,態度といったことが医師としては最低限大事なことであって,それをきちんとできるようになっている人は,例えば知識や技術といったことを抜きにして考えたときにも,将来,「役に立つ研修だったな」と思えるのではないかと思います。

研修医が本質的に学ぶべきことを内科指導医は意識する必要がある

石丸 もっとも,お二人のお話を聞いていたら,そういうことは完全にクリアしていると思います。あとの知識とか,技術というのは,内科へいく人,外科へいく人,いろいろあるので難しいところがありますが,各プログラムで,どれだけの疾患をどういうふうに経験させたかについてはデコボコがあるので,それをなんとか埋めていくというか,標準的にこのへんまでできなければいけないということは,共有してやらなければいけないことだと思います。ただ,日本の病院も多種多彩で,それこそ循環器の患者さんは一切内科では診ないというところもあったりするわけで,疾患の偏りというのは,ある程度やむを得ないところもある。そのなかで,本質的に学ばなければいけないことは何かということを,内科の医師として意識しながら教えなければいけないと思います。

 ローテーションした人が,また指導医になっていくという流れのなかで,おそらくこういうことはどんどん改善されていくのではないかと,私は楽観的に考えてはいますが。

指導医の不幸

前野 私は,必修化における指導医の根本的な不幸として,スーパーローテーションの経験のある指導医がきわめて少ないという事実があると思います。理想的には,必修化が目指す理念を理解していて,全部を教えられる人が,2年間べったり教えられれば,たぶんそれが一番いいのだろうと思います。しかし,例えば10年目の先生で,例えば内科を6か月やった,外科を3か月やった,小児科を3か月やった,産婦人科,精神科…とやった先生というのはほとんどいないと思うのですよ。

全国一律の制度ゆえの難しさ

前野 今回の研修制度は,全国毎年8,000人のための制度ですから,現実的には「この領域は内科でやってください」「この領域は○○科でやってください」というように,現在の指導体制に合わせて研修目標個別に切り分けていくしかないわけです。

 実際,プログラム責任者養成講習会では,何百とある研修目標を診療科に割りつける練習というのをやるんです。これをやっておかないと,例えば意識障害について,内科は救急で診るだろう,救急は内科で診るだろうとお互い思いこんでいて,結局両方で診られなかった,というのでは研修が終われなくなってしまうわけですね。ですから,研修管理委員会としては,すべての研修項目を必ずどこかに割り付けなくてはいけないんです。それぞれの病院の事情に合わせて,例えば意識障害であればA病院では内科,B病院では救急,C病院では救急ではなく麻酔を回ることになっているから,外科で夜の当直の時に経験させる,というように割り付けていくわけです。

 割り付けには,病院の診療体制も大きく影響します。例えば,総合診療科がある病院と,ない病院,内科の診療体制,例えば大学病院だったら全領域がありますけど,中規模病院だと呼吸器と循環器と腎臓しか診ないというところもあるわけで,それによっても違ってくるんです。

臨床の基本を学ぶことが期待されている内科ローテーション

前野 ですから,内科で何を研修するかは病院によって異なります。しかし,その根本は,おそらく石丸先生もその意味を含めておっしゃったのだと思いますが,「内科的なものの考え方」ではないかと思います。

(つづきは本誌をご覧ください)


前野哲博氏
1991年筑波大学卒業,同年河北総合病院内科研修医。1999年筑波大学附属病院総合医コースレジデント修了。筑波メディカルセンター病院総合診療科を経て2000年筑波大学臨床医学系講師,2003年同助教授。現在,総合臨床教育センター副部長,総合診療グループ長。卒前・卒後の臨床教育に携わるとともに,総合診療科において診療ならびにレジデントの指導を行っている。

鳥居秀成氏
2004年慶應義塾大学医学部卒業(83回生)。卒後2年間を横浜市立市民病院で研修後,慶應義塾大学医学部眼科学教室に入局し現在後期研修中。特技は空手(三段)。中学から空手を始め,高校・大学の空手部主将を務め,東日本医科学生総合体育大会(東医体)で6年間で4回優勝,新宿区空手道選手権一般有段者の部で優勝している。趣味はドライブ。

下山祐人氏
2003年東京医大卒。湘南鎌倉総合病院を経て現在は東京女子医科大学病院循環器内科へ。研修医時代に治療に難渋した心不全や不整脈を自分の力で何とかしたいと思い,現在に至る。粘り強く諦めない医療で患者を救いたいと考えている。

石丸裕康氏
1992年大阪大学卒。天理よろづ相談所病院ジュニアレジデント,内科系シニアレジデント,1996年同チーフレジデント。1997年から総合診療教育部医員。