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第2回 【上手な研究計画書】の書き方 佐藤裕史(慶應義塾大学医学部 クリニカルリサーチセンター)
現在汎用されている治療法には,経験の蓄積で認められたものもありますが,今では,無作為割付対照試験など臨床研究による実証が必要です.「evidenceに基づく診療指針に準拠した医療がEBMだ」という誤解もありますが,「個別の患者の診療に際しevidenceの採択の可否を吟味する」のがEBMの原義です.大規模臨床試験の結論が必ず正しくて日常臨床の工夫が無意味なのではなく,金科玉条視されてきた治療法にも間違いがありえます.臨床の疑問から仮説を立て,これを適切な臨床試験で検証することが肝要です. 臨床試験は研究計画の質で決まります.本稿では,研究計画書(プロトコル)の基本と,犯しやすい間違いを概説します. ■プロトコルには何を書けばよいかプロトコルには,表1の内容が最低限必要です.
とりわけ試験の目的,仮説,対象集団の定義,試験デザイン,評価項目が肝心です.いくつかについて述べます. ○評価項目(endpoint):代表的な評価項目が確立されている疾患もあります.病態を鋭敏かつ特異的に反映し,ばらつきの小さい評価項目だと症例数は少なくて済みます.主要評価項目は1つに絞ってほかは副次的項目にするのが最善です.試験開始後の評価項目の変更は困難です.当該疾患に詳しい医師と生物統計家から事前に協力を得るとよいでしょう. ○組入れ基準/除外基準:症例の適切性を決めます.試験の成功(仮説の検証)には,除外基準を厳しくし標本集団の均質性を高めたほうがよいですが,厳し過ぎると臨床の現実とかけ離れます.他方,日常診療の感覚で組入れると患者特性がばらつき,試験の質が損なわれます.臨床医は,どうしても診療と臨床試験との隔たりに不慣れで「組入れ過ぎ」のきらいがあり,「組入れ基準に合致するのは,主治医が適切だと思う症例数の4分の1~10分の1」とさえいわれます. ■よくある誤りと注意点研究計画をUMINや日本医師会治験促進センターなどに組入れ開始前に登録する規則(違反すると一流誌に受理されない)もお忘れなく. ○評価項目の過剰設定:「たくさん測っておけば有意差が出るだろう」と項目を多数設定するのは,「広く網をかけて後で絞ればいい」という診療における感覚からくる考え方かもしれません.しかし,効果のない治療を有効と見誤る(false positive)確率が増えます(検定の多重性). ○組入れ速度:たいがい楽観的すぎます.試験期間は試験の質,人手,費用,成功確率に影響します.事前準備を怠りなく. ○研究協力者:臨床試験は独りでは無理です.経験者,統計家,コーディネータとの連携を. ○「統計的に十分な症例数が集まらないから試験は無駄」:事前に定義した統計解析計画で有意差が出なくても傾向の指摘はでき,検定が無理でも記述統計による推定は可能です.「星(有意差)がつかないから失敗」は速断です. ○「後出しじゃんけん」:主要評価項目で有意差がなかった(なさそうだ)からと,試験途中や終了後に計画の主要部分をいじったら一流誌では門前払いです. ○同意説明文書:研究目的や内容が一般人にわかるよう平易・簡明に.よい臨床研究は説明文書も優れています.「研究計画の審議ではまず説明文書を見よ」ともいわれる所以です. ■どうやって情報を仕入れるか○講習会:あちこちで開催されています.国立がんセンターICR4)など良いe-learningもあります. ○文献:NEJM, Lancetなど一流誌掲載の良質な臨床試験報告を熟読しましょう.「習うより慣れろ」です.基本的事項は成書1~3),5)を参照してください. ○経験者・生物統計家への相談:試験計画が実現可能か,予算・人員との兼ね合いなど,実務的なコツは相談に限ります. ○製薬企業の治験に参加する:治験実施計画書は,熟達した専門家と規制当局とで練った末できたものです.治験参加は,大規模臨床試験に慣れる近道です. 文献 日本製薬医学会(JAPhMed)とは |