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●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第9回テーマ

主訴別の患者の診かた(4)
頭痛を訴える患者の診かた(前編)

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


 「こめかみが痛い」,「後頭部が痛い」など頭痛を主訴に受診する患者は神経内科に限らず非常に多い.「片頭痛です」と自分で診断をしてくる患者や,「昔から頭痛持ち」と訴えてくる慢性頭痛の患者も多い.日本人成人の40%が慢性の頭痛持ちともいわれるが,頭痛の診療を専門としない医師は,鎮痛薬投与のみか,必要以上に恐れてすぐに専門医に紹介するか,無視して対応しないか,という傾向があるのではないだろうか.頭痛の専門家が対応しなければならない頭痛はむしろ稀であり,きわめて多くの患者が潜在しているわりには,ほとんどの患者が病院を受診しないのも事実である.

 今回は「頭痛」を訴える患者の問診法と観察点について解説し,日常診療で頻度の高い機能性頭痛の鑑別についてポイントを概説したい.緊急の対応が必要な場合が多い症候性頭痛の鑑別法については,次回概説させていただきたい.


 頭痛はさまざまな原因で起こる一つの症状にすぎない.頭痛の詳細な分類については,Ad Hoc委員会の分類や国際頭痛学会の分類が使われるが,実際の臨床で経験する頭痛の約8割は緊張型頭痛であり,片頭痛と合わせれば頭痛の大部分を占める.

 頭痛の診療で重要な点は,片頭痛や緊張型頭痛などの機能性頭痛と,くも膜下出血,脳出血,髄膜炎などの症候性頭痛を鑑別することである.機能性頭痛は生活指導を含めて長期的に治療していく必要があるが,器質的疾患に基づく症候性頭痛は緊急の対応が必要であり,見逃してはならない.

■問診の重要性

 初診時の問診は初期診断を誤らないためにきわめて重要で,大半の頭痛は特別な機器がなくても外来レベルで診断がつく.一方で,頭痛の診断には頭部CT,MRI/MRAなどの画像所見が重要であることは言うまでもない.過剰診療と言われるかもしれないが,器質的疾患の除外,誤診の予防,患者の不安を取り除くために,頭痛を訴える患者においては頭部CTはルーチンで,できれば初診時に行っておくべきであると考える.

いつから,どのように起こったか

 急に痛みが起こったのであれば,くも膜下出血を含めた血管障害を疑う必要があるが,片頭痛や群発頭痛,労作性頭痛も急性発症することがある.緩徐に起こったのであれば緊張型頭痛が多いが,脳腫瘍や硬膜下血腫なども疑う必要があり,どの程度持続しているかなどの経過の問診が重要になってくる.

 頭痛のため目が覚める,目が覚めてからしばらく頭が重いmorning headacheは脳腫瘍,慢性硬膜下血腫,高血圧による頭痛,肺気腫などによる肺性脳症を考える必要がある.morning headacheのなかでも脳腫瘍,慢性硬膜下血腫のように頭蓋内圧亢進に伴う頭痛であれば,起床時から痛い「目覚め型」の頭痛を呈し,昼寝から起きたときも痛い.一方で,朝起きたときには頭痛がなく,身支度中に頭痛がしてきたという場合は,morning headacheであっても頭蓋内圧亢進による頭痛ではない.副鼻腔炎による頭痛も朝起こることが多く,二日酔いや心因性頭痛でもmorning headacheを呈するので,問診が重要である.午後になると頭痛がする場合は緊張型頭痛,眼精疲労による頭痛などが考えられる.

 また,頭蓋内圧亢進による頭痛は臥位で増悪し,立位で改善する.咳,くしゃみ,運動などによっても頭痛が増悪する.一方で,低髄圧症候群,腰椎穿刺後頭痛では逆に臥位で改善し,立位で増悪する.

どこが痛むか,どのような痛みか

 頭全体の痛みであれば頻度的には緊張型頭痛が圧倒的に多く,次いで発熱による頭痛,二日酔いを含めたアルコール中毒などである.注意すべき疾患には髄膜炎,脳腫瘍,慢性硬膜下血腫,一酸化炭素中毒などがある.限局性の痛みであれば,一側性であれば片頭痛が多く,ほかに耳疾患,側頭動脈炎なども疑われる.前頭部痛であれば副鼻腔炎,緑内障などの眼疾患,後頭部痛であれば緊張型頭痛,変形性頸椎症,後頭神経痛などを疑う.

 拍動性の痛みであれば,片頭痛などの血管性頭痛が疑われる.持続性の頭痛であれば緊張型頭痛が多いが,脳腫瘍,慢性硬膜下血腫も疑う必要がある.圧迫されるような,物をかぶったような痛みであれば緊張型頭痛が疑われる.

■髄膜刺激徴候の診かた

 頭痛を訴える患者においては髄膜刺激徴候の有無は必ず観察しておかなければならない.嘔気,嘔吐などの髄膜刺激症状があるかどうかの問診と,髄膜刺激徴候として「項部硬直」,「ケルニッヒ徴候(Kernig sign)」の有無を観察することが重要である.

 「項部硬直」(図1)は仰臥位で,枕をはずして観察する.患者に全身の力を抜くように指示し,検者が被験者の後頭部を抱えて持ち上げ他動的に前屈させ,その際の頸部の抵抗を観察する.

(つづきは本誌をご覧ください)