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●東大病院内科研修医セミナー

第16回テーマ

悪性褐色細胞種の長期生存例

大石 篤郎・槙田 紀子(東京大学医学部附属病院腎臓内分泌内科)


Introduction
・褐色細胞腫とはどのような疾患か?
・内分泌専門医ではない一般内科医
・外科医などにとって必要な褐色細胞腫の知識とは?
・一般的な褐色細胞腫の診断・治療とは?
・褐色細胞腫における禁忌とは?
・内分泌悪性腫瘍とは?

CASE

症例】47歳(2006年6月現在)男性。

現病歴】1984年1月(23歳時)左季肋部痛で近医受診。腹部超音波・CTで径11cmの傍大動脈腫瘤を指摘。血中ノルアドレナリン(NA)6.0ng/ml,アドレナリン(A)0.1ng/mlとNA異常高値のため,当院分院内科紹介受診。入院精査で副腎外褐色細胞腫と診断され,同年4月泌尿器科で腫瘍摘出術を施行。術後,血中カテコラミンは減少傾向(NAは正常上限の約2倍程度までの低下)であったが,約3年後に自己判断で通院を中断。

 1988年頃左腰臀部痛が出現。近医整形外科で圧迫骨折と診断,牽引で対処された。

 1996年頭痛(Headache)が出現。98年盗汗(Hyperhidrosis)も出現し,11月高血圧性クリーゼ(Hypertension,激しい後頭部痛,吐気,嘔気,sBP220~240mmHg程度)で近医入院。褐色細胞腫の再発が疑われ,α1-blocker(カルデナリン®),β1-blocker(テノーミン®)にてsBP150mmHg程度にコントロールされた。体重減少(Hypermetabolism:-9kg/2年),カテコラミン高値を指摘され,12月当院内科に紹介。CT,MRIで仙骨左上部に骨融解を伴い123I-MIBGシンチグラムで取り込みを認める腫瘤を認め,副腎外褐色細胞腫再発および骨転移と診断。1999年1月疼痛コントールのためオピオイド(MSコンチン®)内服のうえ,他院放射線科にて外照射(計64Gy)施行。腫瘍縮小効果が認められ,オピオイドも不要となり退院。

 2001年10月頃より,頭部左回旋時に後頸部痛を自覚。2002年2月,咳嗽時に背部痛も出現。4月123I-MIBGシンチグラム,CTで頭部,頸部前方,胸腰椎周辺,両肺野への多発転移が認められた。骨転移に対しビスフォスフォネート(アレディア®45mg/月)の点滴静注を開始し,全身転移巣に対して一度化学療法(CVD療法)施行するも,効果が認められないため本人の希望もあり中止。内科的には,α-blockerとβ-blockerの併用で血圧コントロールできており,外来で経過観察されていた。

 2005年8月,左腰臀部から大腿部痛増悪。MRI上,新たに肋骨,右大腿,下位頸椎転移の出現を認め,以前より存在した仙椎,L4,T11,L1部病変にも増大傾向が認められ,123I-MIBG上も明らかな増悪を認めた(図1)。左下肢痛は,L1・L4・S1の根症状との判断で,Th11~L4への放射線外照射(計46Gy/23分割)を施行,疼痛に対してはオピオイド再開(オキシコンチン®10mg2×)。同時に指摘された二次性糖尿病(Hyperglycemia)に対しインスリン導入。全身転移巣の増悪に対しては他に治療法がないため,10月よりCVD療法を再開。

既往歴】 頸部・腰部打撲(19歳,交通事故),十二指腸潰瘍(23歳)。

家族歴】父:Parkinson病,母:結核(42歳で死亡)

生活歴】飲酒:焼酎コップ2杯/日×27年(20~47歳),喫煙:40本/日×32年(15~47歳)

入院時現症】身長152.3cm,体重53.4kg(BMI23.0),体温36.0°C,血圧148/62mmHg,脈拍73/分・整,頭頸部・胸部に明らかな異常所見なし。腹部正中に手術痕あり。左前脛骨筋力の低下,左足背領域の感覚低下あり。明らかな膀胱直腸障害なし。

入院時検査所見】〈血算〉白血球分画含め異常なし,貧血なし,血小板数正常〈生化学〉 LDH306IU/l↑,GOT126IU/l↑,GPT121IU/l↑,γ-GTP475IU/l↑,ALP237IU/l↑,T.B0.7mg/dlと肝機能異常認める(アルコール性)。腎機能・電解質は正常。血中カテコラミン3分画(5月);アドレナリン55pg/ml(0~100),ノルアドレナリン17,702pg/ml(100~450),ドーパミン261pg/ml(0~20)。

画像所見・生理検査】胸部X線;異常なし,心電図;正常洞調律

経過】6クール施行後(2006年2月)の評価では,自覚症状の改善(体重増加,頻脈の改善),内分泌学的改善(ノルアドレナリンの漸減)(図2),123I-MIBGシンチ上の著明な改善(分布は不変であるが,全体的に取り込みが低下)(図1)などから,CVD療法は有効と判断している(partial response)。2006年6月現在まで計10クール施行しているが明らかな副作用なく,今後も定期的な評価をしつつ継続する予定である。

Problem List
・悪性褐色細胞腫(多発臓器転移,骨転移)
・二次性糖尿病

(つづきは本誌をご覧ください)