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●東大病院内科研修医セミナー

第15回テーマ

関節リウマチ治療中に発症した
ニューモシスチス肺炎の一例

北川 洋(東京大学医学部附属病院呼吸器内科)
佐野 仁美・河原崎秀一(同内科研修医)


Introduction
・関節リウマチ治療中に出現する肺炎の原因は何か?
・ニューモシスチス肺炎治療におけるステロイド療法の位置付けは?

CASE

症例】78歳,女性。

主訴】呼吸困難感・腹痛。

現病歴】2003年頃より癒着性イレウスにて入退院を繰り返していた。関節リウマチは,1998年より当院整形外科へ通院中であり,2005年4月までプレドニン®4mg1×,リマチル®200mg2×,リウマトレックス®4mg/週の服用を継続していたが,同月より関節症状の悪化に対しプレドニン®10mg1×へ増量となっていた。

 同年10月より呼吸困難感が出現したため10月18日胸部CTが撮られた。呼吸困難感が徐々に増悪したことおよび11月3日より腹痛が出現したため,翌日救急外来を受診し,イレウスの再発が疑われ同日入院となった。

既往歴】 47歳時:子宮筋腫手術,68歳時:S状結腸癌手術,76歳時:環軸椎関節亜脱臼。

家族歴】特記すべき事項なし。

身体所見】体温 38.1°C, 脈拍91/分・整,血圧 116/76mmHg,SpO2 94%(O2 3l/分,鼻カヌラ下)。頭頸部:異常なし。呼吸音:下肺野に捻髪音。心音:異常なし。腹部:下腹部に手術痕,平坦・軟,圧痛あり,反跳痛なし,筋性防御なし,腸音 やや微弱。四肢:浮腫なし。

入院時検査所見】血算:WBC 11.6×103/μl(Seg 88%,Eos 0%,Lym9%),Hb 13.4g/dl,Plt 36.1×104/μl。生化学:TP 5.6g/dl,Alb 3.0g/dl,LDH 385 IU/l,GOT 39 IU/l,GPT 25 IU/l,γ-GTP 23 IU/l,ALP 115 IU/l,T. Bil 0.8mg/dl,Ca 7.7mg/dl,BUN 12.4mg/dl,Cre 0.48mg/dl,CRP 19.59mg/dl,Na 129mEq/l,K 3.5mEq/l,Cl 98mEq/l,AMY 113IU/l,CK 52 IU/l,Glu 113mg/dl,β-Dグルカン118.8pg/ml KL6 331U/ml,CMVアンチゲネミア陰性,クリプトコッカス抗原陰性,喀痰ニューモシスチスPCR陽性。凝固能:PT-INR 1.22,APTT 33.6sec,Fib450mg/dl。動脈血血液ガス分析(室内気):pH7.450,PCO2 24.7mmHg,PO2 68.7mmHg,BE-5.4。尿定性:SG 1.014,pH 7.0,Pro (1+),Glu (-),Ket(-),OB(3+),Uro(±),Bil(-),Nit(-),WBC(-),沈:RBC 51~100/HPF,WBC 2~5/HPF。

画像所見】胸部X線写真(図1a):CTR (心胸郭比)43.5%, 両肺野に中枢から広がるスリガラス状,斑状/網状影。
腹部X線写真(図1b):小腸ガスなし,ニボーなし。
胸腹部CT(11月4日,図2c):両肺野にスリガラス影の拡大,明らかな腸管の拡張なし。

入院後経過】イレウス疑いに対しては,これまで繰り返してきた癒着性イレウスとの判断から禁食・抗生物質与にて経過観察となった。肺病変に対しては,β-Dグルカンの上昇および,喀痰ニューモシスチスPCRが陽性であることから,ニューモシスチス肺炎の診断のもと11月4日よりST合剤(バクトラミン®,トリメトプリムとして720mg/日)を開始された。しかし,翌日より呼吸状態が急速に悪化し,治療開始3日目には人工呼吸器管理〔SIMV(呼吸同期性間欠的強制換気)+PS(従圧式人工呼吸) FiO2 0.70〕となった。胸部X線写真上気胸の発生は認められず,ニューモシスチス肺炎治療に関連する呼吸不全と考えられ,ST合剤継続に加えステロイドパルス療法を開始された。11月8日にはFiO2は1.0となったものの,徐々に呼吸状態は改善し,17日にはインスピロンFiO20.35にて人工呼吸器離脱となった。以降も,呼吸状態は改善傾向が続くため,ST合剤は24日に終了となった。腹部症状も改善が認められていた。

 しかし,同時期より白血球数の減少および38°C台の発熱が認められたため,ST合剤による顆粒球減少および院内発症の感染性肺炎と考え,G-CSF製剤(グラン®,フィルグラスチム150μg/日)・塩酸セフェピム1g1日2回・ボリコナゾール(160mg1日2回)を開始した。白血球数が改善し始めた12月2日より呼吸状態の急速な増悪を認め,翌3日には再度人工呼吸器管理(SIMV+PS FiO2 0.45)となった。CT上ニューモシスチス肺炎の増悪が疑われたが,β-Dグルカンの上昇を認めず,炎症の契機と白血球数の改善時期が同時期であることより呼吸器感染症に加え,G-CSF製剤に伴う好中球増多による呼吸不全と考えられ,12月3日よりステロイドパルス療法を施行された。5日頃より炎症反応・呼吸状態も改善傾向が認められ,8日には人工呼吸器離脱となった。以後,呼吸状態の改善は続き,室内気でも酸素濃度が保たれるため,ステロイドもプレドニン®10mg/日まで漸減された。リハビリ後2月1日に退院となった(図3)。

Problem List
・関節リウマチに対するステロイド投与中に発症した肺炎
・治療開始後に急速に進行する呼吸不全

ニューモシスチス肺炎および治療に関連する急性呼吸不全

(つづきは本誌をご覧ください)