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●東大病院内科研修医セミナー

第10回テーマ

トロンボポエチンが診断に有用であった
特発性血小板減少性紫斑病の1例

大池裕美子・松川倫子・江頭正人(東京大学医学部附属病院老年病科) 


Introduction
・血小板減少をきたす疾患は?
・特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)の診断は?
・ITPの治療は?

症例】 70歳,女性。

主訴】 関節痛,紫斑。

現病歴】 2001年10月29日左側頭葉~後頭葉の脳梗塞を発症して当科入院。この頃血小板数は20万/μl台であった。2004年11月26日血小板数12.4万/μlに低下していた。以後も斬減し,12月16日に9.9万/μlとなった。2005年5月,皮膚に掻痒感があり,引っかくとその跡に,点状に小紫斑が出現するようになった。2005年7~8月頃より(1,2カ月前より),打撲すると皮下出血するようになった。2005年9月9日区の健診で血小板減少2.6万/μlを指摘されたため,9月12日当院受診。血小板1.9万/μlであり,精査加療目的に9月12日入院となった。

既往歴】 67歳~発作性心房細動,脳梗塞(ワーファリン®内服にて加療),骨量減少(ダイドロネル®14日間/3カ月内服にて加療)

身体所見】 意識清明,血圧142/76mmHg,脈拍63/分整,体温36.5°C。四肢,胸部,下腹部に皮下出血7カ所程度,左頸部小紫斑30個くらい密集,前腕小紫斑数カ所まばらに散在。甲状腺触知せず。心音:I →II →III (-)IV (-),雑音なし。呼吸音:正常。腹部:平坦,軟。右下腹部に圧痛あり。肝脾触知せず。四肢:左膝上部軽度腫脹,両母趾MP関節軽度圧痛,下腿浮腫なし。リンパ節は触知せず。神経学的所見に特記すべき異常なし。

検査所見】 [血算]WBC5.3×103/μl (Blast 0%,Prom 0%,Myelo 0%,Meta 0%,Stab 1%,Seg 46%,Eos 4%,Baso 1%,Mono 10%,Lym 38%),RBC 380×104/μl,Hb 12.5g/dl,Ht 36.6%,Reti 1.7%Plt 2.1×104/μl [生化学]TP 7.0g/dl,Alb 4.3g/dl,LDH 267IU/l,GOT 21IU/l,GPT 14IU/l,γ-GTP15IU/l,ALP 158 IU/l,T.Bil 0.9mg/dl,BUN 14.6mg/dl,Cre 0.65mg/dl,Na 141mEq/l,K 3.7mEq/l,Cl 104mEq/l,UA 5.4mg/dl,HDL-C 68.8mg/dl,cLDL-C 139mg/dl,TG 124mg/dl,FBS 98mg/dl,CRP 0.14mg/dl, [凝固]PT 32.8%aPTT 37.6secPT-INR 2.08,Fib 257mg/dl

入院後経過】 血小板破壊亢進(ITP,薬剤),血小板産生障害〔MDS(骨髄異形成症候群)などの骨髄疾患〕,EDTA凝集,その他を鑑別に検索を進めた。EDTA凝集を否定するため,カナマイシン入りのスピッツで採血を行ったが,やはり血小板数低下を認めた。腹部エコー・腹部CT撮影し,脾腫がないことを確認した。ダイドロネル®の影響を否定できないため中止とし,DLST(薬剤リンパ球刺激試験)を行うも結果は陰性であった。ITPを疑いPA IgGを測定したところ,135ng/107cellsと高値であった。骨髄穿刺にて骨髄の低形成,巨核球数の減少を認め,ITPに典型的な所見ではなかったが,ITPの診断に有用とされる血中トロンボポエチン濃度が13.3pg/mlと低値を認めITPの可能性が高いと判断した。ステロイドパルス(デカドロン®40mg×4日)を施行し10日目にはPlt 6.8万と改善した。抗H.Pylori抗体陽性(86U/ml),尿素呼気ガス試験陽性(63.5‰)のため,ピロリ除菌治療(サワシリン®,クラリス®,タケプロン®内服)も施行し,1カ月後には血小板数が10.8万/μlとさらに増加を認めた。入院後の血小板数の推移を図1に示す。

Problem List
・血小板減少

血小板減少をきたす疾患の鑑別のため,最近の動向もふまえ検査を施行し診断を確定させる。ITPと診断後は,全身状態,検査所見に基づいて治療方針を決定する。

(つづきは本誌をご覧ください)