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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第7回

あなたは経口血糖降下薬を上手に使えますか?

坂田道教・出雲博子(聖路加国際病院内分泌代謝内科)


糖尿病診療  まずここを押さえよう

(1)糖尿病はインスリン作用不足(インスリン分泌不全・インスリン抵抗性)を原因として発症することを念頭に置こう.
(2)経口血糖降下薬は作用機序に応じて,それぞれの症例で使い分けよう.

■症例1
  婦人科外来で血糖高値を指摘された63歳女性

指導医 症例1は63歳女性です.当院産婦人科で子宮癌を7年前に手術し,経過観察中にHbA1c 8.7%が発見されたため,当科に紹介となりました.身長153cm,体重50.0kgであり,vital signや身体所見に特に異常は認められませんでした.今までに肥満を呈したことはないそうです.受診時の検査所見は表1の通りです.この症例をどう考えますか?

表1 症例1(受診時の検査所見)
WBC 5,600/μl LDL-Cho 102mg/dl
Hb 13.4g/dl HDL-Cho 72mg/dl
Plt 21.3万/μl TG 76mg/dl
AST 16IU/l BUN 11.7mg/dl
ALT 18IU/l Cr 0.75mg/dl
LDH 133IU/l Glu 210mg/dl
    HbA1c 8.7%
U-Pro (-) U-Glu (-)

研修医 随時血糖値が200mg/dlであり,またHbA1cも6.5%以上なので,糖尿病と診断していいと思います.問題はいつから発症しているかだと思うのですが,健康診断などは定期的に受けていたのでしょうか?

指導医 いいえ,特に受診していなかったそうです.ただ当院での記録を見る限り,2年前のHbA1cは5.8%だったようです.

 研修医:少なくとも血糖が高かった期間は2年以内ということになりますね.2年以内であれば,おそらく糖尿病による合併症はないと思いますが,網膜症の有無と尿中微量アルブミンの測定を行ったほうがいいと思います.

指導医 尿中微量アルブミンを測定するのはなぜですか?

研修医 腎障害というとクレアチニンの上昇から気づくことが多いと思いますが,糖尿病性腎症は尿中の微量アルブミンが陽性となることから発症し,クレアチニンが上昇するのはかなり病期が進行してから起こるからです2)

指導医 そうですね.この症例は眼症もなく,尿中微量アルブミンも陰性でした.そのほか気になる点はありますか?

研修医 体重減少などはなかったのでしょうか?

指導医 特になかったようですが,なぜですか?

研修医 糖尿病の症状として,口渇・多飲・体重減少がみられることもあると思うのですが,急に糖尿病が発症した場合,症例のような年代だと膵癌がないことを確認したほうがいいと思います.

指導医 そうですね,(1)高齢で発症した糖尿病患者,(2)急激な血糖コントロールの悪化,(3)体重減少がみられる場合には膵癌も疑ったほうがいいですね.この症例も腹部CTを施行しましたが,特に異常は認められませんでした.さて,では治療はどうしましょうか?

(つづきは本誌をご覧ください)