HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻10号(2008年10月号) > 連載●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係
●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係

第10回テーマ

もっと患者を知りたい

灰本 元(灰本クリニック)


 前回は「患者が一番知りたいこと」を主題にしたが,今回はその逆の私たち医療関係者が「もっと患者を知りたい」がテーマである.昨今では個人情報保護や漏洩防止に社会全体がやっきとなっており,患者も個人情報を守るという権利が身についているので,秘密主義が一つの潮流となっている.それに患者の秘密を知るとその後の患者-医師関係は後戻りできない,ならばいっそ知らないほうがよい,関わらないでおこう,そのほうが面倒でない,そんな時代を私たちは生きている.しかし,無言であったり多くを語らない患者たちは本当に知られたくない,本音を明かしたくないのだろうか.そして私たちはもっと患者を知らずに診療が成り立つのだろうか.

■話を切れない理由

 ある日の診察室の会話.あそこが痛いここが痛い,寝られない,腹部が張る,喉が不快,食欲がないなどさまざまな不定愁訴を長々と訴える中年の女性患者を私は診察していた.横についていた看護師はうんざりした表情を浮かべていたが,私のほうはむしろ真剣に聞いていた.患者が診察室を退出した後,

看護師 大変な患者さんですね.聞いていてちょっとうんざりしました.カルテもたくさん並んでいるし,先生はもっと早く話を切ると思ったんですが…….

灰本 いつもならそうしたけどね,今日の話には出なかったけど,ご主人がつい最近自殺してね,患者さんは今大変な時期なんだよ.

看護師 えっ,そうだったんですか,知らなかった.

 確かに切れなかった理由があったのだ.このようなひとこまは診察室ではよくあることだ.患者が今しんどい事情をこちらがあらかじめわかっているなら,かなりの無理難題を繰り返し突きつけられても我慢して話を聞けるものだが,事情がわからなければただうんざりするだけだ.だから患者の過去現在の事情や家族や生活の背景を理解しているかどうかは,患者-医師関係を築き上げていくために必要条件となる.

■一人娘の一大事

 最近経験した症例を挙げて“もっと患者を知りたい”とはどういうことなのか,考えてみよう.

(つづきは本誌をご覧ください)