HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻9号(2008年9月号) > 連載●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集
●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集

第9回テーマ

インフォームド・コンセントの手順(前編)
リスクマネジメントの基本としての

田中まゆみ(聖路加国際病院・一般内科)


 日常診療におけるリスクマネジメントの鉄則を綴ってきた本連載を締めくくる前に,「インフォームド・コンセント」に触れないわけにはいかない.前回まで「リスクマネジメントのABCD」を示してきたが,そのいずれもがインフォームド・コンセントと表裏一体の関係にある.インフォームド・コンセントを適切に取ることが,最大のリスクマネジメントであると言っても過言ではない.


■インフォームド・コンセントの重要性

 患者が医師に与えるインフォームド・コンセントとは「説明を受けたうえで同意する」ことであり,現代医療の根幹をなす概念である.インフォームド・コンセントの基本精神の理解は,本来,医師と患者を近づけるはずのものである.それを,「医療者の保身のための書類」に貶めてしまうことこそが患者-医師関係の破壊につながる.インフォームド・コンセント(基本的な手順を図1に示す)を「面倒な」手続きと思っているとしたら,その医師は自ら訴訟リスクを高めていることになる.インフォームド・コンセントの詳細な記載こそが患者の権利を守る医師の姿勢を最も示すものであるからである.

 インフォームド・コンセントの概念を理解するためには,まず,歴史を少し復習する必要がある.

 患者と医療者の力関係に絶対的落差のある状況(患者が医療者に“No”と言えない状況)での医療は,「治療や研究の名を借りた障害行為」に容易になり得ることを,歴史は教えている(注1).米国で黒人の梅毒患者に当時の適切な治療を行わずに「自然経過観察」の「研究」を行ったタスケージ事件,日本軍731部隊の医師が捕虜に行った残虐な人体実験など,枚挙に暇がない.第二次世界大戦後,ナチス傘下の医師がユダヤ人に行った人体実験を裁いたニュルンベルグ裁判において,医学研究の倫理をうたった「ニュルンベルグ綱領」が生まれ,その後,世界医師会がこの精神を引き継いでヘルシンキ宣言(注2)として患者の権利を確立した.このヘルシンキ宣言が,インフォームド・コンセントのもとになっている.

 日常診療とナチスの人体実験がどう結びつくのか.

(つづきは本誌をご覧ください)

注1 Annas GJ:The Rights of Patients, American Civil Liberties Union Handbooks, 2004
注2 ヘルシンキ宣言の日本語訳は日本医師会ホームページにある.