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●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第9回テーマ

場所に応じたプレゼンテーション

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


循環器内科のカンファレンス:不安定狭心症の症例で

研修医:主訴は心窩部痛で来院された,ここ数年検診を受けておられない58歳の喫煙男性です。現病歴ですが……(現病歴,ROSなど既に数分経過)。
スタッフ:オイオイ。いつになったら検査所見が出てくるの?
研修医:いや,鑑別診断で胆石症や逆流性食道炎も挙げられるかと思ったんですが……。
スタッフ:でも,この症例はすでに心臓カテーテル検査で,虚血性心疾患ってわかってるんでしょ。それより危険因子は?
研修医:あ,まだ検査所見までいってなかったんですが……。身体所見はどうしましょうか?
スタッフ:必要なところだけキッチリ教えて。
研修医:血圧は164/92で,脈拍は110の整でした。(以下,続く……)。腹部は平坦,軟で圧痛はありませんでした。Murphy徴候は……。
スタッフ:もう腹部はいいって。前回のクールの研修医から申し送り受けてないの?
研修医:……。

ICUの申し送り:間質性肺炎の症例で

研修医:今日,ICUに入室された64歳女性の方です。数年前に膠原病関連の間質性肺炎を指摘され,当院に入院されています。その後,外来にて……(今回の入院に至る病歴で数分経過)。
指導医:いつまで,病歴の話してるの? とにかく,間質性肺炎の急性増悪の症例なんだよね。感染が契機になったって入室時は聞いたけど。次にいこう,もう。
 (各臓器ごとのプレゼンテーションに移行し)
研修医:次は,胸部です。聴診では,呼吸音は両側にlate inspiratory cracklesを聴取し,心音では……。
指導医:今,呼吸の話してるんでしょ。呼吸器の条件は? 血液ガスも取ったでしょ。
 (ようやく,呼吸が終わり……)
研修医:あ,次は心臓ですか。えーっと,検査は心エコーをしていただいて……。
指導医:循環のところでは,まずバイタル。次に他の所見。使っている薬剤と順番に言わないと。
研修医:すみません。バイタルは……。(ひと通り,循環も終わり)
スタッフ:今,使っている循環作動薬は?
研修医:えっ。ドパミンが2ml/hrで流れていました。
スタッフ:それは,何γ?
研修医:え,ガンマ? 時間あたり2mlで流していると思いますが……。
指導医:もういい。後はこっちで話さないと,当直の先生に迷惑がかかっちゃうよ。命がかかってるんだからね。
研修医:(シュン……)

 前回までは,新入院患者の入院時のプレゼンテーションについて,お話ししました。これが,基本であることに間違いはありません。しかし第1回で話したように,プレゼンテーションは相手がほしい情報を提供することが求められるので,状況によって話し方を換える必要があります。

 今回は,専門科/ICU/外来と3つに分けてお話しし,次回以降にコンサルテーションや病棟での回診についてお話しします。

■専門科でのプレゼンテーション

 二次,三次病院で研修していると,多くは専門科に分かれ,症例も専門科によって偏りが出てきているものです。繰り返し述べていますが,新入院のプレゼンテーションは,鑑別診断や重症度を考慮した病歴・身体所見に重点を置いた全国共通のフォーマットであってほしいと思っていますが,すでに診断がついた症例が集まっていれば,病歴よりも検査結果,身体所見よりも危険因子を大切としている場合もあり,鑑別診断を想起させるようなプレゼンテーションは不向きかもしれません。

 スタッフが一堂に会する回診やカンファレンスでは,その場にいる人が求めているものを話す必要性があります。それぞれの科で定められたフォーマットがおそらく存在し,病歴・身体所見のパートに費やす長さ,検査所見の述べるべき順序,危険因子や重症度判定のスコア化が必須であるかどうか,などが決まってきます。また,外来・救急~入院後に行われた大きな検査結果(例えば上部消化管内視鏡,心臓カテーテル検査など)が,比較的早めに話すことが求められることもあるかと思います。

 それぞれの専門科のしきたりに従ったうえで,全体やグループでの回診では,その場で必要とされていることを適切に話す能力を鍛えましょう。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学卒。京都大学医学部附属病院,市立舞鶴市民病院にて研修。2001年より米国Johns Hopkins大学公衆衛生大学院に入学し,MPH取得。2002年秋より現職。院内での総合内科の充実を目指すとともに,全国規模で,研修病院としての「経験の共有」,総合内科/総合診療/家庭医療/プライマリ・ケアの「横のつながり」を意識しながら,この分野を発展させていきたいと強く感じている。
本連載へのお問い合わせはkawashima-a@city.sakai.osaka.jpまで。