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●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第6回テーマ

プレゼンテーションのフォーマット(各論3)
――プロブレムリスト・アセスメント/プラン

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


高血圧症がBaseにある70歳男性が,発熱や呼吸困難を主訴に肺炎で入院したときのプレゼンテーションで

初期研修医:(検査所見まで述べて)以上です。プロブレムリストですが,#1。市中肺炎,#2。高血圧症,#3。前立腺肥大としました。
指導医:なるほど。
初期研修医:アセスメント・プランです。まず市中肺炎ですが,今回の主訴の発熱や呼吸困難の原因としては画像所見も含めて肺炎でいいと思います。喫煙歴もなく……(#1のアセスメント+プランまで終了)。
指導医:それで,異型肺炎の可能性に関しては,どうかな?
初期研修医:えーっと,異型肺炎ですか……。あまり意識していませんでした。
後期研修医:今回の症例に関しては,グラム染色においてもグラム陽性双球菌のみがしっかり見えており,悪寒戦慄なども含めて,肺炎球菌性肺炎でよいと判断しています。また,レジオネラ肺炎などを疑わせる病歴や身体所見も認められておらず……(ちょっと経って)。(初期研修医に向かって)ここまでの詰めた話はきっちり打ち合わせていなかったね,ゴメン。
初期研修医:いや,すみません。#2の高血圧症ですが,近医でFollowされているそうですが,食事や薬剤に対するアドヒアランス(積極的に参加する態度)が,かなり悪いようです。今回の肺炎とは直接は関連しないかもしれませんが,対応したいと思います。
指導医:そうだね。
初期研修医:#3の前立腺肥大ですが,ROSで聞いてみると,結構困っているようで……。
指導医:そうか,それは気付かなかったね。
後期研修医:僕も着目していなかったんですよ。
初期指導医:具体的にどうしたらいいかはまだわかっていないですが……。
指導医:後期研修医ともう一度,確認してみてごらん。わからなかったら,僕(指導医)にでも,泌尿器科の先生にでも相談してもらったらいいよ。よし,じゃぁ,みんなでもう一度見に行こうか。
初期・後期研修医:ハイ!

 前回までの各論で,プレゼンテーションに必要な情報収集,情報の呈示を説明しました

■プロブレムリスト

  既に紹介したフォーマットの通り,プレゼンテーションは主訴,プロファイルから始まり,身体所見,検査所見を述べ,その後にプロブレムリスト,アセスメント・プランに入ります。「プロブレムリストです」と発表者が述べる=ここから整理が始まる!ということで,発表者も聴衆も頭を切り替えられることになります。

 臨床で経験されていると思いますが,このプロブレムリストをきっちり立てるのはなかなか難しいものです。自分自身も研修医に,どのように立てればいいかを個々の症例でも総論でも質問されますが,なかなかこれといった答えが返せないと感じています。プロブレムリストの挙げ方もさまざまな方法があるかと思いますが,今回は自分自身の経験に基づいての分類を説明します。

 プロブレムリストに挙がり得るものの分類は,診断名だけでなく,病歴からの症状,身体所見の異常,検査所見の異常に加えて,プロファイルで紹介したような基礎疾患,ADLや社会的背景,薬剤歴や社会歴,ROSで拾い上げてきた問題など,ありとあらゆるものが含まれます。これをどれだけ,どうまとめて,どの順番で発表するのかが難しいのです。

 一番大きなポイントは,その症例の答え=診断名が確定しているかどうか,です。診断が確定していれば,それに関する問題は,すべてそこに帰属すればいいわけです。ある疾患の合併症や関連疾患/病態,例えば糖尿病症例の腎症(が糖尿病性腎症であった場合)であれば,少々長いプロブレムリストでも整理しやすいものです。

 問題は,診断がついていない症例や,主たる疾患は診断がついているが,他にまだ不確かな病態がある症例です。なぜ問題かというと,

・診断がついていないため,上記に挙げた各種のプロブレムをきっちり挙げると,プロブレムが多くなりすぎる
・多すぎるプロブレムのなかには,まとめられるものや(プレゼンテーション時には)取るに足らないプロブレムが含まれている
・プロブレムリストを少なくまとめるために,まだついていない診断なのに,○○の疑い,と鑑別診断を広げることなく,診断の思考を早期閉鎖してしまう可能性がある
・少なくしすぎて自分では気づいていない重要な問題を取りこぼしている

 このバランスがとても難しいところです。

 また,プロブレムリストをカルテに記載することと,プレゼンテーションで述べることが異なるという点が難しくしている要因の一つです。口頭で多くの問題点を述べても,聴衆の頭のなかではすべてに関しては集中力を維持できないため,一般的には主となる3~4項目以内を述べるに留めます。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学医学専門学群卒業。京都大学医学部附属病院で内科研修のあと,市立舞鶴市民病院にて3年間,内科・救急を研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,公衆衛生学修士(MPH)取得。2002年秋より,現職。総合内科の臨床,研修医への指導や研修システムの確立,病院内での生涯教育にも興味をもち,携わっている。