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●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第1回テーマ

なぜ,プレゼンテーションが必要か?

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


入院紹介で
 「本日,新入院の方です。主訴は発熱です。現病歴ですが……(数分経過)」「で,何歳の男性/女性?ベースはどんな方なの?」「………」

消化器内科医に内視鏡検査を頼みに行って
 「元来,著患のない38歳の男性の方で主訴はふらつきです。現病歴ですが,入院の5日前から黒色便に気づいていましたが,放置されておりました。労作時の呼吸困難が……」「で,どうしてほしいの? 緊急内視鏡をやれってこと?」「………」

退院の相談をメディカルソーシャルワーカーさんへ
 「MSAで診ている60歳の男性の退院後について,相談したいのですが。現時点で困っていることは……」「えーっと,先生……。MSAって何の病気でしょうか?」「………」

緩和ケアのカンファレンスを病棟で
 「肺癌の70歳男性の疼痛管理についての相談です。疼痛コントロールはあまりうまくいけてないようなのですが,ご本人さまが,どうしても麻薬を使いたくないと言っているんですが,どうしたらいいものでしょうか?」「ところで先生。この患者さまのキーパーソンは誰になるかご存知ですか?」「………」

看護師からレクチャーを頼まれて
 「抗菌薬のPK/PDを考えると,○○,一般名では△△の抗菌薬の投与間隔というのは……」「(フロア全体で)zzz……」「せっかく大事なことを教えててるのに,寝てるとはどういうことだ!」「(し~ん)」

 のように,1人の患者さんに対する臨床経過は,臨床医としてさまざまな場所で状況に応じて,誰かに,プレゼンテーションしなければいけません。

 グループでのベッドサイド回診,多くの医師や看護師などが出席するカンファレンスでの発表もプレゼンテーションの1つです。

 また上級医だけでなく研修医であっても,勉強会での指導を任される=人前でプレゼンテーションをする機会を与えられるときがあります。

 今回,プレゼンテーションに関して連載する機会をいただきましたので,まずプレゼンテーションについての総論,続いて基本的なオーラルケースプレゼンテーションについての各論,場に応じたプレゼンテーション,カンファレンスやレクチャー,教育環境などについて,それぞれのコツを交えて話をしていきたいと思います(最後のページに今回の連載の目次を掲載しています)。

 さて,第1回は「なぜプレゼンテーションが必要か?」についてお話します。

 前述のように,医師は独りで仕事をしているわけではありません。特に研修医のころは,症例の討論を通じて,さまざまなポジション/職種の方から,たくさんのことを学ぶと思います。

 そのなかで聞き手の「眼の前にいない」患者さんについて,聞き手が必要としている情報を,限られた時間で,過不足なく伝えることによって,有益な提言を得ることが求められます。この提言の蓄積によって,医師は成長することができますし,より良い医療が提供できるのではないかと考えます。逆に適切な情報を提供できなければ,有益な提言を得ることができず,自分自身の成長を妨げるだけでなく,患者さんのケアにおいても支障をきたす可能性もあるのです。

 この「伝える能力」が,臨床医として求められる重要な能力の1つと思います。

■臨床能力って何?

 研修医の立場からすると,「できる」研修医とは何でしょうか?

 臨床能力とは,何で測られているのか,何を基準としているのか,というとはっきりしたものはありまん。

 事務的な処理が速いことであったり,カテーテル挿入などの手技の得手不得手であったり,さまざまな検査結果を巧みに考察することであったり,カンファレンスでの適切な発言であったり,いろいろあると思います。

 プレゼンテーションについてはどうでしょうか?

 「今日の回診を“乗り切った”」という表現はあっても,「あのようなプレゼンテーションができるように頑張ろう」という発言はなかなか聞かれないものでないかと思います。臨床能力というより,その場を乗り切る処世術というふうに取られているかもしれません。

 他方,指導医の立場から「できる」研修医とは何でしょうか? 前述のような,手技・知識・解釈の部分もあるかもしれません。しかし,気がつくと上手にプレゼンテーションできる研修医に信頼を置いているということはないでしょうか? 逆にプレゼンテーションが上手にできない研修医を指導医はどう感じているでしょうか?「聞いててもわからないから,自分で見にいこう」となるのではないでしょうか?

 適切なプレゼンテーションをするためには,患者さんからなどの「情報収集」力,必要な情報を集める/解釈するための「病態の理解」力,頭の中での「整理」力と伝えるための「表現」力が必要とされています(詳細は第3回)。

 病歴聴取や身体所見はキッチリ取るのは結構時間がかかり,慣れてきても面倒と感じることもあります。が,時間のかかることや面倒なことも行う「誠実さ」や,できていないこと,やっていないこと,をできていない,やっていないと報告できる「素直さ」も指導医は同時に確認していると思います。

 指導医は知らず知らずのうちに,プレゼンテーションを通じて研修医を評価しているものです。

 このようにプレゼンテーション能力は眼に見えにくいけれども,重要な臨床能力の1つなのです(プレゼンテーションが重要という指導医の認識がないことや研修指導の文化が構築されていないことが大きな問題かもしれませんが,この部分は次号でお話します)。

■場面に応じたプレゼンテーション

 プレゼンテーションは皆さんが接する人と状況の数だけ,種類があるものです。

 下記に思い当たる状況を書き上げてみると
臨床経過:新入院,毎日の回診,週単位の回診,退院,申し送り
場所:一般病棟,ICU,一般外来,救急外来
対象:(方針決定のための)上級指導医,(相談役としての)中間指導医,同僚,看護師・メディカルソーシャルワーカーなどのコメディカル,(病状説明のための)患者さん・家族
状況:チーム内での方針決定,専門科へのコンサルテーション,カンファレンス,学会・研究会発表
:診断がついていない/多種の疾患を扱う総合内科/救急科,既に診断がついている/ 特定の疾患を中心に扱う専門科

 やり取りのなかでは,相手が望んでいるもの,相手に望んでいるもの,を,与えられた時間で,重要な点をタイミングよく,職種に合わせた言葉・キーワードを用いながら,プレゼンテーションすることが望まれています。

 それぞれのプレゼンテーションにポイントがありますが,はじめの数回は,プレゼンテーションの基本となる「新入院症例を上級医~同僚を含めたチーム内にオーラルケースプレゼンテーションする」ことに重点をおいて,話を進めたいと思います。

 以後,上記の状況を網羅していく予定です。

「できるプレゼン」のポイント
・プレゼンテーションは見えない臨床能力です。上達するように努力すれば,知らずと臨床力はついてきます
・聞き手の必要とすることを理解し,場に応じたプレゼンテーションを使いこなすことが重要です

今後の連載予定
第1回 なぜ,プレゼンテーションが必要か?
 
(本号)
第2回 現在,「ないもの」
第3回 プレゼンテーションの準備
 フォーマット (総論)
第4回 プレゼンテーションのフォーマット (各論1)
 プロファイル・現病歴・ROS
第5回 プレゼンテーションのフォーマット (各論2)
 身体所見・検査所見
第6回 プレゼンテーションのフォーマット (各論3)
 プロブレムリスト・アセスメント/プラン
 屋根瓦式の教育システム
第7回 ダメなプレゼンテーションとは?
 声・姿勢・コツなど
第8回 上達への道,カンファレンスでの提案
 指導医へ
第9回 場所に応じたプレゼンテーション
 ICU/専門科/外来など
第10回 コンサルテーション
 救急/放射線科など
第11回 ベッドサイド回診
第12回 レクチャー・学会などでのプレゼンテーション
 スライドのコツ


川島篤志
1997年筑波大学医学専門学群卒業。京都大学医学部附属病院で内科研修のあと,市立舞鶴市民病院にて3年間,内科・救急を研修。2001年より米国Johns Hopkins大学公衆衛生大学院に入学し,公衆衛生学修士(MPH)取得。2002年秋より,現職。総合内科の臨床,研修医への指導や研修システムの確立,病院内での生涯教育にも興味をもち,携わっている。