●研修おたく海を渡る |
第37回テーマ Tumor Board(癌症例検討会)のお作法(2) 白井敬祐(サウスカロライナ医科大学) Tumor Board のお作法を書き上げているころ,タイミングよく「どうすればTumor Boardをもっと有意義なものにできるか」という話し合いがありました.長かったり退屈だとおもしろくない映画や劇のように,ひとりふたりと参加者が減っていきます.週1回1時間だと短すぎるけど,週2回は忙しすぎて集まれない,2時間だと長すぎるし,じゃあ90分でやってみようなんて話をしていたのです. すると「エビデンスに基づかない意見は控えたほうがいい」という提案が若手スタッフからありました.「ごもっとも」とそのまま流れかけたのですが,それに対して,「一つひとつのケースを細かく見ると,エビデンスを当てはめることができないことがよくある.またエビデンスをつくること自体が難しいような稀な症例もあるのだから,“anecdotal(逸話的)な”話もばかにしてはいけない」と経験豊富な外科医からの反論がありました. エビデンスがなくても,また,経験したことがない稀な疾患でも,目の前の患者さんを治療しなければなりません.“Absence of proof is not proof of absence.”とはカンファでもよく聞かれる台詞です.William Cowperという18世紀のイギリスの詩人の言葉だそうです.Tumor Boardという場面を考えると「エビデンスがないということは,効果がないというエビデンスではない」といった感じでしょうか.ともするとなんでもエビデンス,エビデンスと考えがちですが,エビデンスをあてはめる難しさと臨床経験の大切さをあらためて確認させられました. 「チーム全体のコンセンサス(共通理解)」をつくり上げるためにも,Tumor Boardは欠かせないものです.頭頸部癌のTumor Boardでは,最初の5分間をもちまわりで科の宣伝に使っていいことになっています.「うちの科には○○先生がやってきて,こんな手術ができるようになりました.今までは無理だったこんなところの腫瘍にアプローチできます.」とか,僕のいる腫瘍内科では,最近の分子標的薬の作用機序から治験の結果までを解説したり,自分の施設で現在進行中の治験の紹介をしたりしています.外科に紹介してくれるのはうれしいけど,「PFT(肺機能検査)なしには,紹介してくれるな!」なんてのもありました.これこそコンセンサスづくりそのものです.先日も「CT上このリンパ節は良性っぽい」とのコメントが放射線診断医から出されたときに,「???」の空気を察した司会がすかさず「まだ1年目のフェローもいるので,形態でリンパ節を見分けるコツを簡単に教えてやってくれ」と助け船を出しました.これも後々の議論をスムーズにするための先行投資の一例です. 日本だけでなく,アメリカでもやはり突っ込んだ議論なしに「ごもっとも,ごもっとも」と粛々と時間が流れていってしまうことがあります.そうなると「ポケベルが鳴ったふりをして……」なんてことにもなりかねません.これを打破するために,しっかりと準備をしたり,いろいろと工夫をするのです.お得感があってためになるだけでなく,しかもおもしろいTumor Board をめざして,「Saturday Night Live*でとりあげてもらうのが,目標!」なんて冗談を言いながらやっています. (注)
白井敬祐
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