HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻9号(2008年9月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第33回テーマ

カンファのお作法

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 研修生活を振り返りながら,どうすれば魅力的なカンファレンス(以下,カンファ)になるか,「カンファのお作法」について考えてみたいと思います.

 一つの症例を丁寧に扱うねちっこいカンファも必要ですが,いつもそれだと準備疲れしてしまいます.テンポよく「Bread and Butter」といわれる典型的な症例に触れるカンファも必要です.テンポがいいというのは,ただ症例をこなすのではありません.それぞれの症例について,診断に至るまでが大事なのか,治療経過が教育的なのか,その後のフォローアップが重要なのかを分析し,ポイントはしっかり議論して,それ以外のところはさらっと流すのです.「次の症例は,治療がポイントです」とプレゼンの最初にコメントすることで,聞く側も集中できます.診断までは一気につけてもいいのです.まだ年の初めはなかなかテンポよくといっても難しいかもしれませんが,慣れてくると,1時間で10例近く検討することができるようになってきます.

 1年目の研修医のプレゼンがうまくなるために欠かせないのが,2~3年目の先輩研修医です.先輩のプレゼンを目の当たりにすることで,到達点がはっきりしてきます.1年後になりたい自分が漠然としたままでの研修とは大きな違いがでるでしょう.informal(ざっくばらん)だけど,お互いをrespectするそんな雰囲気をつくりたいものです.

 必ず,下の学年から聞いていくのもよい方法です.「アホな質問していいカード」なんかを作ってもいいでしょう.日本で進行役をすると,僕が話す時間が多くなります.みんな質問を躊躇しているのでしょうか.そこで,もし一人一枚,「アホな質問していいカード」を渡して,必ずその日のうちに使い切ることにすれば,もっと議論が活発になるかもしれません.また,全ての学年をそろえて,グループダイナミズムに期待するのもよい手です.

 最近,「I love Japan」と言う同僚が話していたのですが,たまらないのは日本食のプレゼンテーションなんだそうです.「なんで食事でプレゼンテーションやねん」と納得いかない方もいると思いますが,日本食の一皿一皿の盛りつけが,そして出てくる順番が「the art of presentation」なんだそうです.「どういう順番で,どんな風に鍵となる所見をプレゼンするか?」……なんだか楽しくなってきませんか? プレゼンにも,まだまだ工夫の余地がありそうですね.

 アメリカではチーフレジデントが,一筋縄ではいかない研修医を相手に,手を変え品を変え飽きさせないように工夫をします.景品を付けたり,最初の10分をJeorpardyというアメリカの有名なクイズ番組のように仕立ててみたり,専門医試験の問題を解くといったこともありました.最後には必ず簡単な宿題をつけて次につなげるのです.次のカンファで宿題となった疑問点を片づけることは,振り返りにもつながります.

 宿題にするのではなく,その場で決着をつけたいと思われる方も多いと思います.あとで家に帰ってから調べようとメモはしたものの,結局やらずじまいという経験は誰にでもあるでしょう.そういったときには,研修医の誰かにハリソンを持たせたり,コンピュータの前に座らせて,検索してもらうのも手です.いつのまにかハリソン君や,UpToDate君ができて,「ほんとのとこ,どうなの?」という雰囲気が漂ったときにすかさず答えてくれれば効果的です.

 実際のところ,まとまった時間がとれなかったり,人数が集まらなかったりと,カンファを続けることは大変です.日本では,必ずしもチーフレジデントがいるわけでもないでしょう.

 しかし,カンファ成功のための最大の秘訣は,ちゃんと準備していなくても,短くてもいいから,とにかく集まってみることです.人数は少なくてもかまいません.僕のフェローシップは1学年3人ですが,週に2~3回は最低でも,集まるようになっています.前日にポケベルを鳴らして,集まることを再確認します.「朝ご飯出るから,8時に集まれ!」と.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.