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●研修おたく海を渡る

第12回テーマ

リフトチーム

白井敬祐


 前回取り上げたアメリカンフットボールといえば,徹底した分業が特徴です。攻撃チームは攻撃のみに,守備チームは守備のみに専念します。例えば攻撃では,司令塔QB(クオーターバック)を筆頭に,ラインマンはプレーを進めるための壁となり,レシーバーはパスキャッチに,ランニングバックは文字通りランプレーと個々の役割分担がはっきりしています。キックオフ,パントなどのキッキングゲームと呼ばれる戦況のみの要員もおり,キッカーといえば,プレースキックをすべて請け負う仕事人です。キックだけと思われがちですが,これが勝敗を分けるのです。あなどることはできません。

 この徹底した分業化はアメリカでは,医療の世界にもあてはまります。日本のように一人でいくつもの業務をこなす姿はあまり見られません。

 いくつか例をあげてみましょう。

 ソーシャルワーカーは,医療保険を含めた家族背景を把握し,「right timeに right personに right placeで療養してもらう」を使命として,家族のニーズにあった医療資源の有効活用をはかります。僕のいる病院では,40人ぐらいの病棟に1~2人の病棟専属ソーシャルワーカーが配置されています。回転がかなり速いので,追い出されたような感じを受けないのかと,当初考えたのですが,家族としっかり話し合って転院先などを決めるので,満足度は思ったより高いようです。

 フレボトミストと呼ばれる採血,点滴のライン取り専門の人もいます。ポケベルを持ち病院内に24時間待機しているので,ラインの取り直しで研修医が呼ばれることは,外頸静脈から挿入するなどの特別なケースをのぞいてまずありません。

 トランスポーテーションチームとは,CTなど含めた検査室への移動を専門に請け負う人たちです。そろいのポロシャツとチノパンを着て,院内携帯電話を持っています。中には,iPodを首にかけたやつもいます。お呼びがかかると必要な病棟に患者移動のために馳せ参じるのです。もちろんICUなどの容態の不安定な患者には看護師も付き添います。

 そのほかにも,バイタルサイン測定,掃除,食事配膳が専門の人たちもいます。みんなユニフォームが違います。

 その極めつけはリフトチームです。リフトチーム?と思われるかもしれません。アメリカには関取以上の体重をもつ人がざらにいるわけで,看護師が大勢集まっても簡単に体位交換や,清拭ができません。そのための特別要員なのです。そろいのTシャツを着た屈強な若者たちがポケベルを持ち,いまかいまかと待ちかまえているのです。

 それぞれの分野の専門職(プロ)を雇うことで,無駄をなくし診療の質を上げることを目的としているのでしょうが,この人的資源の投入がアメリカ医療費の高騰の一因だとも思われます。アメリカでも,あまりに専門分化しすぎることの悪影響も指摘されています。一部の航空会社でコスト削減の一環として実践されているように,日本式の多能工,つまりいろいろできる人の重要性が再確認されているようです。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。