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●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第11回テーマ

泌尿器-前立腺

小山徹也(獨協医科大学病理学)
神原常仁(獨協医科大学泌尿器科)
深堀能立(獨協医科大学泌尿器科)


前立腺癌の増加が著しい。米国においては前立腺癌の罹患率は男性の罹る癌の第1位を占めているが,本邦においては米国の1/10程度と現時点では少ない。しかし,2005年度版がんの統計によると,前立腺癌の年齢調整罹患率の予測では,2020年には結腸癌を抜き第3位となる勢いである。その原因はいろいろあるが,高齢化,食生活の変化,さらにPSA(prostate specific antigen;前立腺特異抗原)検診の普及による早期癌の発見の増加などが考えられる。前立腺癌はホルモン反応性増殖の性格を有する比較的予後の良い癌であり,ホルモン療法,内部ないし外部からの放射線療法,外科手術およびその組み合わせによるさまざまな治療法がある。このほか,watchful waitingと呼ばれる無治療経過観察や温熱/冷凍療法などもある。治療方針の選択に,病理診断が深くかかわっている。特に癌であるか否かではなく,「どんな種類の腺癌なのか」という病理学的因子が重要である。特に近年ではGleason分類に基づく病理組織分類が基本とされる傾向がある。

 本稿の目的は病理と臨床医師をつなぐメッセージとして企画された。前立腺の検査の概略とそのなかで針生検が選択される場合について,泌尿器科医側から解説し,病理学的にどんな情報がほしいのかまず述べる。それに呼応するように,実際獨協医科大学病院で行われている針生検の方法と依頼票の書き方,報告のしかたについても言及しながら,病理側からGleason分類を中心とした診断の解説を行う。病理と泌尿器科,双方の円滑なコミュニケーションの手助けになればと考えている。

■前立腺の検査

 前立腺の形はよく栗の実に例えられ,膀胱側を底,下方を尖部と呼ぶ。尖部は尿生殖隔膜と連続し,後面は直腸とDenonvillier's 筋膜で隔てられている。また,前立腺は解剖学的に4つの領域に分けられる。すなわち,辺縁領域(peripheral zone:PZ),移行領域(transition zone:TZ),中心領域(central zone:CZ),前葉線維筋性間質(anterior fibromuscular stroma:FM) である。PZ,TZ,CZそれぞれの部位における前立腺癌の発症率は68%,26%,6%と報告されている1)

 増加する前立腺癌に対して早期発見,早期治療のもと生存率の向上を目指し,日本全国各地において前立腺癌の腫瘍マーカPSAを利用したPSAスクリーニングが普及してきている。その結果,二次検診である前立腺生検の症例数も増加がみられる。以下,前立腺の検査について簡単に説明する。

1. 直腸内触診(digital rectal examination:DRE)

 前立腺癌の好発部位はPZであり,この部位はDenonvillier's筋膜で,直腸と隣接している。よって,直腸診を行うことによって,前立腺の性状をある程度把握することができる。前立腺癌においては,石様硬の硬度を示す結節を触れ,癌が両葉に拡がる場合は中心溝の消失も認められる。注意することとして,この直腸診を行うことにより血中PSA値の上昇を及ぼすことが挙げられている。直腸診で異常所見が認められた場合,前立腺生検の適応となる可能性があり,また前立腺癌の病期診断においても直腸診は必須の診療行為であるため,習熟した経験が必要となる。

2. 血中PSA値

 多くのPSAスクリーニングではcut‐off値を4.0ng/ml以上と設定している。しかし,前立腺生検をすると血中PSA値3.0ng/ml以下で18.2%,3.1~4.0ng/mlで25.7%の癌が発見されるという報告があり,PSAが基準値以内の場合においても直腸診,経直腸的超音波検査により癌を疑う所見が認められた場合は生検を勧めたほうがよいと提唱されている。

3. 超音波検査(エコー)

 前立腺癌に対する超音波検査は経直腸的走査,経腹的走査があるが,前立腺の内部,辺縁など質的診断を要する場合,経直腸的走査(transrectal ultrasonography:TRUS)が推奨される。一般的に前立腺癌は,超音波所見としては低エコー所見(hypoechoic lesion)として描出される。しかし,同エコー所見(isoechoiclesion)として描出されている部位においても,系統的針生検を行うと癌が検出されることをたびたび経験する。ここに経直腸的走査の限界が存在する。この限界に対して,腫瘍新生血管の同定をDoppler法(color Doppler法,power Doppler法)を用いることによって克服しようとする試みもある(図1)。

4. MRI

 分解能が優れているMRI(magnetic resonance imaging;磁気共鳴撮像)は前立腺癌の検出,病期診断に使用されている。一般的に,T2強調画像でPZは高信号を呈するが,癌の存在に一致して低信号に変化する(図2)。また,ガドリニウム(Gd)を用いたdynamic studyを行うと,早期相(early phase)で濃染され,後期相(late phase)でwash‐outされるという特徴を示す。

 また,前立腺被膜の肥厚や断裂,rectoprostatic angleの左右差もしくは消失,精嚢浸潤の有無などによる前立腺癌の病期診断は,治療法選択において重要である。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1) McNeal JE, et al:Origin and development of carcinoma in the prostate. Cancer 23:24‐34, 1969