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●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第8回テーマ

骨髄

佐藤孝(岩手医科大学医学部第2病理)
時田智子(岩手医科大学医学部第2病理)


 骨髄は骨組織に囲まれた造血組織で,赤血球,白血球,巨核球の造血3系の細胞のほか,マクロファージ,細網細胞,脂肪細胞,血管などから構成されている。骨髄検査は,貧血や白血病などの血液疾患における骨髄造血能の評価のために重要な検査で,骨髄穿刺法と骨髄生検法の2つの方法がある1)。骨髄穿刺法は,骨髄内に穿刺針を入れ骨髄液を吸引し塗抹標本を作製し観察するもので,造血細胞をはじめとした骨髄を構成する個々の細胞の詳細な構造を観察するのに役立つ。これに対し骨髄生検は,生検針を用いて骨髄組織を採取し他の生検組織と同様に標本を作製し観察するもので,骨髄全体の組織構築を評価するのに有用である。骨髄穿刺と生検はそれぞれの短所を相補し合うが,生検は穿刺に比べ患者への負担が大きく,手技的な点からも穿刺のほうが行われることが多い。穿刺により採取された骨髄液の中にも骨髄小片が含まれており,細胞数の算定や塗抹標本を作製した残りの骨髄液をホルマリン固定後パラフィン包埋し標本(クロット標本)を作製すれば,骨髄の組織構築の観察が可能となる。病理では塗抹標本を参考にしながら,このクロット標本の観察が中心となる。

 すでに述べたように骨髄検査は重要な検査であるが,血液疾患の診断は他の検査所見も併せてなされることが多い。この点で,今まで取り上げられてきた他の臓器検索の組織診断が病理でなされるのとは違って,病理診断のもつ意義も他の臓器とは多少異なっている。本稿では骨髄穿刺法により作製された塗抹標本,クロット標本について述べる。この2種類の標本のもつ短所,長所を比較しながら,組織構築を中心とした骨髄組織病理の観点から解説を進めたい。

骨髄穿刺

 骨髄検査は,血液疾患の疑われる患者で,臨床症状,身体所見,検査所見,末梢血塗抹標本での各種血球形態の観察から病態を十分考察し,その意義を明確にしたうえで実施する。骨髄における造血部位は年齢により異なる。生後4歳ぐらいまでは全身ほとんどの骨髄で造血が営まれているが,年齢とともに長管骨骨髄は遠位部から脂肪化が始まる(黄色髄)。20歳を過ぎると長管骨骨髄はほとんど黄色髄となっており,造血は頭蓋骨,骨盤,胸骨,脊椎骨,肋骨などで認められる。穿刺部位は,小児では,脛骨上端,成人では胸骨(図1a)および後腸骨稜直下が選ばれることが多い。骨髄穿刺の具体的な手技については他の成書を参考されたい。

 採取された骨髄穿刺液は,有核細胞数や骨髄巨核球数の算定を行うとともに,直ちに塗抹標本の作製を行う(図1b)。塗抹標本作製後にスライドグラスや注射針などを用いて骨髄小片を集め(図1c),余分な血液を濾紙を用いて取り除く。10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後(図1d),パラフィン包埋し,薄切し,HE染色や特殊染色を行ったものがクロット標本となる。なお検査目的によっては,細胞表面マーカー検査,染色体検査,遺伝子検査,細胞培養検査なども行うことが必要であり,骨髄検査を行う前に検討しておく。また電子顕微鏡による検索を行う場合には,検体処理のしかたが異なるため担当病理医と事前に連絡をとって打ち合わせを行う。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1) 宮地勇人:骨髄検査の適応と禁忌,池田康夫(編):血液疾患のとらえかた,pp50-52,文光堂,2001