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●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第6回テーマ

肝臓,胆道系,膵臓

西川 祐司(秋田大学医学部病理病態医学講座分子病態学分野)


■病理組織(細胞)診断の対象となる肝・胆・膵疾患

まず,どのような肝・胆・膵疾患が日常の病理診断の対象になるのかを概観してみよう。

1.肝臓

 針生検の対象となる代表疾患はB型およびC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎である。自己免疫性肝炎,アルコール性肝炎,非アルコール性脂肪肝(non‐alcoholic steatohepatitis:NASH),肝硬変,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC),原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)などに対しても針生検が行われる。また,肝アミロイドーシスやリソソーム病などの蓄積症の診断にも有用である。さらに,肝移植後の拒絶反応の評価には生検は欠かせない。肝腫瘍,特に肝癌は,画像診断で確診できない場合に,病変からの生検が行われる。転移性肝癌は肝部分切除検体として提出されることが多い。

2.胆道系

 急性および慢性胆嚢炎,胆石症,胆嚢癌などは開腹または腹腔鏡下での胆嚢摘出検体として提出される。胆管癌の確定診断には,胆管粘膜生検,胆汁細胞診が用いられる。胆道癌に対しては,膵頭十二指腸切除術などが行われ,総胆管断端浸潤の有無について術中迅速診断が必要となる。

3.膵臓

 主として膵腫瘍が病理診断の対象となる。確定診断のために,膵液細胞診,膵管生検,経皮的針生検などが使われるが,今後は穿刺吸引細胞診も多用されることになろう。手術が行われた場合,摘出検体の病理学的な精査が行われる。

■病理組織検査を提出する場合の注意点

1.組織採取,固定法

 固定液としては10~20%中性緩衝ホルマリンを用いる(なお,施設によっては,肝生検のために特別の固定液を用いる場合があるので確認が必要)。胆汁は組織傷害性が強いので,胆嚢や胆管は摘出後,早めに切開し,胆汁を除去してから固定する。また,膵組織は自己融解しやすいので,早く固定液に入れるようにする。胆嚢はさびないピンを使って板に貼り付けて,粘膜を伸展させた状態で固定するが,半固定状態が粘膜の性状を観察するのに最適であることを知っておこう。また,膵頭十二指腸切除検体は,主膵管,総胆管を切開した後,膵断端,剥離面などの位置関係がわかるように板に貼り付け,固定する。

2.病理申込用紙に記載するポイント

 臨床診断,鑑別診断,検査データ,画像診断所見,既往歴,関連する臨床情報などについて詳細に記載してほしい。肝臓疾患の場合,ウイルス検査データ,飲酒歴,輸血歴,肥満,糖尿病,高脂血症などに関する情報は診断の鍵となる。胆嚢摘出の場合は,胆石の有無,粘膜病変の有無,胆嚢管断端の位置なども記載する。膵頭十二指腸切除などの複雑な手術検体の場合は,全体像,病変の局在,断端の位置などを模式図で示す。また,病理医による切り出しにはできるだけ立ち会うようにしてほしい。  術中迅速診断の場合,事前に病理医と打ち合わせて,検査の目的を明確にしておきたい。また,転移が疑われる場合には,手術前に原発腫瘍の組織標本を用意しておくことが大切である。

■各論

 次に,肝・胆・膵疾患それぞれについて,実際の症例を題材にして,病理診断に関連して役立つと思われることやピットフォールなどについて述べたい。

1.肝疾患1-3)

 まず,肝臓の基本的な組織構造を理解しておこう。肝の基本単位は肝小葉であるが,小葉周辺部に門脈,肝動脈,小葉間胆管の三つ組を含むグリソン鞘(門脈域)があり,小葉中心部には中心静脈がある。門脈血と肝動脈血は肝細胞索を囲む類洞内を流れ,中心静脈に至り,肝静脈血として肝外に流出する。一方,肝細胞が作る胆汁は,肝細胞間に形成された運河のような毛細胆管を通って小葉間胆管に至り,肝管,総胆管を通じて腸に排泄される。グリソン鞘にはコラーゲン線維の太い束からなる結合織が豊富に存在するが,肝の90%以上を占める肝細胞は細網線維と呼ばれる細いコラーゲン線維からなるネット状構造で支えられているのみで,肝は本来結合織に乏しい組織といえる。しかし,慢性肝疾患では傷害の進行とともに結合織が増加する。  肝の病理組織検査でもヘマトキシリン・エオジン(HE)染色が基本であるが,グリコーゲンをジアスターゼ処理により除去した後のPAS染色(d‐PAS),Elastica‐Masson(EM)染色,鍍銀染色もルーチンに行われる。d‐PAS染色は肝細胞内の異常な蛋白蓄積を見いだすのに有効である。EM染色は結合織を緑に,弾性線維を暗紫色に染め,線維化の程度を評価するうえで欠かせない。鍍銀染色では細網線維が漆黒に染まるが,グリソン鞘や中心静脈周囲にある普通の結合織はやや茶色味を帯びるのが特徴である。必要に応じて鉄染色,コンゴー赤,ウイルス抗原に対する免疫染色などを行う。  それでは,PBCを例にとり,肝生検の組織像を具体的に説明しよう。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1) MacSween RNM, et al:Pathology of the liver, Churchill Livingstone, London, 2002
2) Scheuer PJ, Lefkowitch JH:Liver biopsy interpretation, WB Saunders, London, 2000
3) Bacon BR, et al:Comprehensive clinical hepatology, Elsevier‐Mosby, 2006