●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】 | |
第3回テーマ 呼吸器 清水健・河村 憲一・是松元子 呼吸器(気道)は上部と下部に分かれ鼻腔から肺までが含まれるが,特に重要なのは肺である。悪性腫瘍による死亡順位で,肺癌は男性では第1位,女性でも大腸癌,胃癌についで第3位であり,死亡数は年々増加している。本稿は肺を対象臓器とし,肺癌検査に焦点を当てた病理検査について話を進める。 ■病理検査の意義原発性肺癌には扁平上皮癌,腺癌,小細胞癌,大細胞癌という代表的な4疾患をはじめとしていろいろな組織型があり,それぞれ特有な臨床病理学的特徴を示す。また転移性腎癌がしばしば気管支内発育を示すように,いかにも原発性肺癌のような発育進展形式を示す転移性腫瘍もある。近年,画像診断技術が著しく進歩し,身体の内部の臓器における変化も詳しく描出できるようになったが,治療方針決定のための確定診断に,病変から得られた細胞・組織による直接的な診断が欠かせない点は,他臓器の場合と同様である。例えば小細胞癌という病理診断が確定すれば,手術ではなく化学療法が第一に選択される。肺は深部臓器であり手術も侵襲度の高いものなので病理検査による術前の確定診断は重大な意味を持つ。■申込書のポイント病理検査を有効なものにするためには病理検査申込書(または依頼書)に表1のような項目が記載されていることが望ましい。特に肺の場合には,喫煙歴,塵肺・クロム鉄鉱などの職業歴やアスベスト曝露歴,また,腫瘤性病変の鑑別のための結核の既往歴が重要である。また全身疾患の部分症として肺に病変が発生している可能性もあるので,特に膠原病などの基礎疾患がある場合には,必ず記載してほしい注1)。悪性腫瘍の既往歴の記載により病理診断が容易になる場合もある。転移性肺癌としては,頻度多く遭遇する胃癌,結腸癌,乳癌以外にも,甲状腺癌やある種の卵巣癌など20年近く経ってから晩期遠隔転移するものも稀にあり,その情報により診断が可能となることがある。申込書は臨床サイドにとっても,患者の病態のデータベース的意味を持つ。面倒がらずに記入してほしい。
■代表的な検査肺の病理検査としては,喀痰細胞診と経気管支的肺生検(transbronchial lung biopsy:TBLB)が頻度も高く代表的なものである。近頃では,気管支鏡下でのキュレットやブラシ,あるいは洗浄による細胞診検体採取が行われる機会も増えている。これらについて利点,欠点,検体採取の注意,報告書の読み方について述べる。(つづきは本誌をご覧ください) 注1:内臓癌,特に肺癌を合併する疾患としては,多発性筋炎(polymyositis)または皮膚筋炎(dermatomyositis),黒色表皮症(acanthosis nigricans)が有名である。 文献
|