●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】 |
第2回テーマ 下部消化管 武内英二(滋賀県立成人病センター病理部) 下部消化管は空腸から直腸までを指すが,小腸と大腸とでは疾患の頻度や内容が大きく異なる。 小腸はまず,大腸に比べて癌の発生頻度が圧倒的に低く,内視鏡が回腸末端までしか届かないことや,造影しづらいこともあり,日頃内科的には病理との接点は少ない。小腸の炎症性疾患で病理医が活躍することは剖検以外ではめったにない。外科的に頻度の高いのは小腸梗塞であり,壊死に陥った部分が切除される。小腸癌は頻度は低いが筆者は数年に一度遭遇する。悪性度が高く予後は期待できない。腺腫は空腸・回腸では無視できるほど低頻度である。癌腫より頻度が高いのは非上皮性の腫瘍である。代表的なものはmalignant lymphomaとgastrointestinal stromal tumor(GIST)であるが,leiomyoma,leiomyosarcoma,neurilemoma(schwannoma)なども発生する。 大腸では,大腸癌がついにわが国で女性の癌死亡率のトップとなった。したがって,やはり最大の関心事は癌とその周辺ということになる。腫瘍性疾患では,粘膜に発生する腫瘍として,polyp状を呈する腺腫(adenoma)の頻度が上部消化管に比べてきわめて高く,さらに非腫瘍性のpolypの頻度も高いため,良悪性の鑑別に加え,腫瘍性か非腫瘍性かの鑑別も必要となる。さらに小腸と同様に粘膜以外に発生する非上皮性腫瘍も存在する。腫瘍性疾患のほかにもUC(ulcerative colitis)やCrohn病などの炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)の頻度が高く,これらの鑑別が問題となる。そういう意味では大腸は胃よりもバラエティーに富んでいるといえる。 それでは具体的に下部消化管病変の診断の進め方を学ぼう。 ■細胞診下部消化管における細胞診は腹水細胞診くらいなものである。内科的には癌性腹膜炎が疑われる場合の穿刺細胞診であり,外科的には術中腹水細胞診である。大腸癌の場合は,術中腹水細胞診陽性でもStage IVとはならず,胃癌との悪性度の差が窺われる。■生検下部消化管において小腸が生検の対象となるのは回腸末端ぐらいなもので,生検といえば,まず大腸生検と考えてよい。大腸においては,癌の検出目的のほかに,炎症の質的診断(UCやCrohn病など)が目的となることがある。細菌やウイルスによる感染性腸炎に関しては後述する。1. 生検組織採取の注意点基本的には前回(本誌43巻2号,336ページ)述べたことと同様で,要は病変の中の診たい箇所をいかに的確に採取するかである。では,どのような場合にpitfallに陥るかを具体的に挙げてみよう。1) polypの場合
2) Type 2の場合
3) IBDの場合(図1)
(つづきは本誌をご覧ください) |