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●病理との付き合い方 病理医からのメッセージ

第3回テーマ

病理組織診断

正確な診断結果を得るための検体提出方法

森谷 卓也・石田 和之・赤平 純一


 いったん,患者の体から離れた組織や細胞は,検体と総称される。このなかには病理検査(病理組織検査)に供されるもの以外にも,血液検査(血算など),尿検査,細菌培養検査などの目的で採取されるものがある。これら検体検査のなかでも,病理組織検査は細胞診検査とともに,報告書のなかに具体的な診断名,あるいは腫瘍の良悪性判定などが記載されることが特徴であり,その診断は専門医(病理専門医,口腔病理専門医,細胞診指導医など)によって行われるのが常である。

 病理組織診断は,病理医が主に顕微鏡を用いて観察し,診断を行うものである。このなかには生検から手術標本まで,さまざまな大きさの検体や組織・臓器が含まれる。本稿では,主治医(担当医)の方々がそれら種々の検体を提出する際に知っておいてほしいこと,注意すべきことについて,総論的に述べてみたい。

病理組織検査用検体の固定 なぜ重要なのか

 病理に提出する検体が採取された場合に,最初に行う操作が固定である。固定とは,蛋白質をはじめとする組織の構成成分やその形態を,可能な限り生体内に近い状態に保つことを目的とする。固定によって,生体内では(半)流動状であった物質が固形化し安定した状態に変化する。その結果,細胞内外の物質移動が制限され,生体内に近い状態で組織や細胞を観察することが可能になる。

 具体的な固定操作として,ホルマリン液に漬けることは誰もが知っているが,この過程をおざなりにすると,いわゆる固定不良の状態となり,組織に自己融解や腐敗が起こってしまい,十分な形態学的観察が困難となる(特に,胆嚢や膵臓では激しい)。

 過度に乾燥した検体や,生理食塩水などに長時間漬けられ水分を含んでしまった(膨化した)検体では,固定液が十分浸透しないため形態学的観察に支障をきたす。ホルマリンには独特の臭いがあるので,簡単に生理食塩水と区別することができる。逆に,固定期間が長過ぎ(過固定;2~4週間以上)でも染色性不良であったり,組織が硬くなり標本が作製しにくくなる。

 標準的な固定方法についての注意点を表1にまとめた。ホルマリンは組織の表面から内方に浸透していく(標準的には1時間当たり1mm。このスピードは組織の種類により大きく影響を受ける)。したがって,体積に比してホルマリン液に接する表面積を増やせば,十分な固定を行うことができる。

表1 病理組織検査用検体のホルマリン固定に関する注意点
固定開始時期:検体採取後速やかに
固定液の種類:通常は10~20%緩衝ホルマリン
固定に適した組織の大きさ:5mm厚程度が望ましい厚い標本は不可
固定液の温度:室温で可
固定液の量(容積):組織1に対しホルマリン20以上が望ましい

 図1に固定の実例を示した。図1aは正しい量のホルマリンに浸された生検検体である。他の2つは望ましくない例で,図1bは液の量は十分であるが,検体が浮遊してしまっており,必ずしも十分固定されないことが危惧される。このような場合にはガーゼでくるむなどの操作を加え,全体に液が浸透できるように工夫する。また,図1cの場合は容器の中に組織を詰め込んでしまったために,少量のホルマリンしか入らず,固定不良となってしまう。容器に組織片を詰め込むと,固定された組織は硬くなるので,容器の形のままの組織塊ができあがり,元通りの形に修復することは困難である。さらに,狭い口の容器に詰め込んだ場合には容器を破壊しなければ組織を取り出すことができなくなってしまう。

 手術例など採取組織片が大きい場合には,よい固定を行うために種々の工夫がなされる。大きな固形物であれば,固定前にあらかじめ割を入れ,固定液に接する面積を増やす(図2)。漿膜は固定液が浸透しにくいので,特に注意すべきである。

(つづきは本誌をご覧ください)