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●医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第8回テーマ

トロッカー,胸腔チューブ挿入

本村和久(王子生協病院・内科)


 いままで,きわめて基本的な手技や安全管理対策について述べてきたが,今回,次回はやや侵襲的な手技について具体例を述べたい。今回は「トロッカー,胸腔チューブ」についてである。

トロッカーということなかれ

 表題が「トロッカー」ながら,「トロッカーということなかれ」とあえて書かせていただきたい。

 胸腔内に溜まった液体をドレナージするために行うのが,胸腔チューブ挿入である。疾患でいえば,血胸,気胸,膿胸,胸水が適応である。本邦では「トロッカー(トロカール)を入れる」と表現されることが多いが,トロッカーとは,英語でいう「trocar」 であり,その意味は内筒(金属製の針)である。フランス語でいう,剣刃の「trois」(3つの)+「carre」(面)に由来する言葉である。

 「トロッカーを入れる」というが,入れたいのはその外側にあるチューブであり,金属の針のような物騒なものはできれば体の中に入れたくない。多くのテキストで,トロッカーなしでの挿入が強調されている1)。肺損傷,大動脈損傷などが起こっている合併症である。肺動脈に直接チューブが入ってしまったケースも報告されている2)。筆者は冠動脈を損傷し,心タンポナーデとなった例を目の当たりにしたこともある(緊急開胸手術で後遺症なく救命)。

 実際,胸腔ドレナージの備品として,金属の鋭利な棒がついたトロッカーカテーテルを常備している施設は多い。基本的に,トロッカーは不要,外側のチューブのみの準備でよい。

(つづきは本誌をご覧ください)


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)を経て,現職。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わる。