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●医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第7回テーマ

インスリンを上手に使おう

本村和久(王子生協病院・内科)


インスリン使用の現状

 血糖コントロールのためのインスリンの使用法は,医師によってさまざまである。患者さんの病態に応じて使い分けているのが主な理由であると思うが,低血糖,高血糖などの緊急時インスリン使用についても,慢性期の同じような病態(中心静脈栄養時など)でもばらつきがあり,複雑な指示を受ける看護師は大変である。業務が複雑だと医療事故につながる。医師のわかりにくい指示で害を被るのは患者さんである。例えば,下記のような事例であろうか。

ある問題ケース

 患者さん65歳男性,糖尿病歴15年,HbA1cが8.0とコントロールは悪い。今回,細菌性肺炎で入院,指導医は感染症があると血糖コントロールが不良になると考え,スライディングスケールを研修医に指示,1日3回の血糖測定を行うことになった。血糖は300前後と高かったが,研修医は「血糖300mg/dlで速効性インスリン2単位皮下注」のような甘い基準のスライディングスケールを使用した。血糖はコントロールされず,指導医の回診で厳格なスライディングスケールを使用したところ患者さんは低血糖に。また,新たなスライディングスケールを使用したが,この指示を看護師が勘違い,最初のスライディングスケールが使用され,患者さんの血糖はまた300台に後戻りした。

インスリン使用の問題点

 上記のケース踏まえて,問題点をリストアップしてみると,

 ・医師の指示が読みにくい
 ・医師の指示がまちまちで看護師,患者が混乱する
 ・検査器具が不正確(器具自体の信頼性,誤った使用法では結果が不正確)
 ・頻回の血糖チェックで看護師が大変,患者さんも痛い思いをする
 ・看護師の指示の受け間違い
 ・コントロールされていない
 ・看護業務への圧迫
 ・患者間違い
 ・インスリンの使用に慣れていない医師の指示による過量(もしくは過少)投与
 ・血糖コントロールをすべき患者さんに対してインスリンが使用されていない

などが生じている。沖縄県立中部病院では,血糖コントロールの指示を原則として3パターンに限定,専用のチェックリストを用いて,事故防止に役立てている。王子生協病院でも血糖コントロールをチェックリスト化することを検討している。

(つづきは本誌をご覧ください)


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)を経て,現職。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わる。