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●医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第4回テーマ

マニュアルは絵に書いた餅?
──手技マニュアルの有用性,手技のライセンス化

本村和久(王子生協病院・内科


教育の重要性

 気管内挿管,胸腔ドレーン挿入などの侵襲的な手技が患者さんの命を救うことは多いが,未熟な研修医が手技を行えば,事故が起こる可能性は当然高くなる。しかし,やらないことには手技は上達しない。最初から名医はいない。

 研修医が手技を行う場合でも,確実に安全は確保されなければならないし,患者さんの負担も最小限に抑える環境が整っていなければならない。研修施設は,患者さんを実験台とする病院であってはならず,むしろ,患者さんの安全を確保するために,たゆみない努力を続けている病院でなければならない。国の内外を見渡しても,臨床で優れた評価を得ている病院は研修病院であることが多い。米国のマサチューセッツ総合病院はその好例であるが,十分な研修医教育を行うと同時に安全管理も徹底して行い,優れた質の医療を提供している。研修病院であることは,逆に言えば常に「医療安全」に熱心な病院ということでもある。手技一つをとっても,適切な方法で安全に行われるような条件を確保していなければならない。

どう教えるのか?

 “See one, do one, teach one”はよく医学教育の現場で強調されるフレーズである。見て覚えて,やって覚えて,教えてさらに理解を深める。「教えることは学ぶこと」ともいう。が,マンパワーが不足している医療現場では,不馴れな医療行為を一人で行うことも多い。見てわかることと,やってわかることの差はかなり大きい。知識は前提条件だが,実際の経験が重要である。

理想はシミュレーション

 しかし,最近では“See one, do one, teach one”は教育方針として甘いらしい。“see one, simulate many, do one competently, and teach everyone”1)とたくさんのシミュレーションのうえに,確実な医療行為を求める動きになってきている。近年普及してきた,BLS(一次救命処置)やACLS(二次救命処置)の講習会がその代表だろう。アメリカの医学教育の現場を見ると,一部の施設で活用されている先進のシミュレーション技術に驚かされる2)3)。たくさんのモニターを備えた集中治療室そのもののなかに,リアルに呼吸する人形,これらを前に,医学生が「血圧低下」「徐脈」などの急変に対応する。以前なら,研修医がやっとできる程度の判断,手技を,人形相手ではあるが,医学生が簡単にこなしてしまう。ただ,この設備を維持するのに,莫大な費用が必要,日本の現状ではこのシステムの導入は簡単ではない。

(つづきは本誌をご覧ください)

参考文献
1)Vozenilek J, et al:See one, do one, teach one:advanced technology in medical education. Acad Emerg Med 11:1149-1154, 2004
2)http://anesthesia.stanford.edu/VASimulator/simulator.htm
3)http://www.wiser.pitt.edu/


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)を経て,現職。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わる。