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医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために

第2回テーマ

処方ミスをなくそう

本村和久(沖縄県立中部病院地域救命救急センター)


私の反省
問題だらけの処方箋

 研修1年目を振り返ってみると,当時手書きであった処方箋の書き方はひどいものであったと反省しきりである。私の書いた処方箋が届くとすぐに薬剤師からのポケベルが鳴り,読めない,用法が違う,量が多いなどの指摘を受け,いつも平謝りしていた。間違いを指摘してくれないと患者さんに被害が及ぶことになる。学生のときまでを振り返ると,卒前の医学教育のなかで処方箋の書き方を学ぶ機会はごくわずか,講議で2~3回,卒前に病棟で処方箋を書くことは,ほとんどなかったと記憶している。また,新研修医オリエンテーションで,薬局が研修医に説明する時間はないのだが,多いときで1日50件を超える病棟での処方箋書きは研修1年目の仕事であった。

処方ミスの影響
全米が驚いた発生頻度

 医療事故のなかでも最も頻度が高いのが薬剤投与に関するものである。米国のブリガム&ウィメンズ病院とマサチューセッツ総合病院が行った研究では,入院患者の約10%が,薬剤過剰投与などの医療者側の過誤を含む薬剤副作用に遭遇する可能性があることが示され,その頻度の高さゆえに全米の医療界に大きな衝撃を与えた。さらに,この研究では,「重症のADE(薬剤副作用)が起こった症例のうち42%は医療側のミスが原因」であり,一方,「軽症のADEが医療側のミスで起こった割合は18%と低く,重症のADEほど予防可能」であることも示され,薬剤投与における医療事故防止対策の必要性が示唆された(注1)。

注1:李啓充著『アメリカ医療の光と影』(医学書院)参照のこと。

『この研究では,薬剤副作用(adverse drug events, ADE)は「薬剤に関連した医療行為の結果患者に害が及んだ場合」と定義され,狭義の薬剤副作用だけではなく,薬剤の過剰投与など医療側の過誤によるものも含めている。

 6か月に及ぶ調査の結果,(中略)実際に起こってしまったADEと合わせると実に入院患者の10人に1人がADEに遭遇する可能性があるという結果となり,全米でも最先端をいく2病院でのADEの頻度の高さが全米の医療界に大きな衝撃を与えた。

 またADEの転帰をその重症度で見た場合,(中略)死亡した症例はすべて予防不可能のADEによるものであったが,重症のADEが起こった症例のうち42%は医療側のミスが原因であった。これに対し軽症のADEが医療側のミスで起こった割合は18%と低く,重症のADEほど予防可能であることが示された。』

(同書22~23ページより引用)


本村和久
1997年,山口大学医学部卒,同年,沖縄県立中部病院プライマリ・ケア医コース研修医。沖縄の離島診療所である伊平屋診療所勤務,沖縄県立中部病院内科後期研修医を経て,2003年より沖縄県立中部病院勤務(総合内科,救急,離島医療支援)。研修医のときに自ら起こした医療事故をきっかけに医療安全対策に関わっている。