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HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻7号(2010年7月号) > 連載●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル
●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第10回 テーマ

日常診療の中でコミュニケーションスキルを鍛える

和座一弘(わざクリニック)


【キーワード】
●解釈モデル
●フィードバック
●尤度比

事例:

医師 「今日はどうなさったのですか?」
患者 「咳が1カ月も続いているのです.」
医師 「それは大変ですね.○○さんは,長引く咳のことで具体的に何か心配なさっていることはないですか?」
患者 「それが,父が昨年肺がんで亡くなり,自分もがんではないかと心配なんです.」
医師 「そうですか.○○さんは,タバコを吸いますか?」

■コミュニケーションスキルの7段階を意識する

 今回は,日常診療の中で,コミュニケーションスキルをどのように鍛えるのかについてお話をしたいと思います.皆さんは,コミュニケーションスキルの7つの段階はご存じでしょうか.医師が患者さんと出会って,診察を進めるにあたって使うコミュニケーションスキルを整理すると,具体的には,大きく次のように分類できるといわれています.「I.オープニング」「II.共感的コミュニケーション」「III.診断に必要な情報の授受」「IV.傾聴・情報収集」「V.説明・真実告知・教育」「VI.マネジメント」「VII.クロージング」の7つです.この基本的な枠組みをしっかりと押さえて,日々の診療の中で,7つの段階の今どこに自分がいるのかを意識しながら診療することは,きわめて重要なことです.

 この事例は,7つの段階の中でも,特に,「IV.傾聴・情報収集」のステージで,患者の病気に対する解釈モデル・心配事などに焦点を合わせて診察した例ですね.客相手のサービスという点で仲間といえるコンビニエンス・ストアでは,客がどのような商品を望んでいるかをいろいろなアンテナを張って調査研究しているそうです.皆さんは,コンビニのおにぎりを食べたことはありますか.おにぎりといっても好みはさまざまですね.お米の質にこだわったり,また,包装方法も心配りはさすがです.上記の事例では,「咳を治してほしい」患者が医療機関に来院したのが,コンビニに「おにぎりを買いに来た」に当たります.しかし,この受診理由の奥には,さらに咳に関連しての心配や,不安があるわけです.事例では,咳に関連した肺がんの心配でしたね.そのほかには,以前から喘息があり,それが再発したのか心配といった例もあるかもしれません.肺炎や結核の心配だってあります.われわれは,ここまで踏み込んで患者のニーズを聞き出す必要があるのではないでしょうか.コンビニで客のニーズに合ったおにぎりがきめ細やかに並んでいるように.大変なことですが,患者が,何を求めて私のクリニックにやって来たのかを傾聴や解釈モデルなどのスキルを使いながら,しっかりと捉えることが出発点であることを忘れないようにしたいと思っています.

■理論と実践をつなぐ“仕掛け”

 日々の多忙な診療の中で上記の7つの段階を整然とクリアしながら,診療をすることは不可能です.そのため,実臨床の場面では,その状況に合わせて7つの段階に緩急をつけたり,また,上記の例のように,コミュニケーションスキルの「解釈モデル」に重みを置くなど,個々のスキルに軽重をつけるスタイルが現実的です.以上のように,基本的なコミュニケーションの枠組み(理論)と,日々の診療の実践の間を往復する中で,コミュニケーションスキルは鍛えられていくのではないかと考えています.

 しかしながら,上記の理論と実践の往復をより容易にするための仕掛けがあれば,嬉しくなりますね.次にその具体的な例をお話ししたいと思います.この仕掛けの基本的コンセプトは,自分のコミュニケーションスキルを映し出す鏡を作ることです.

スタッフからのフィードバックを活用する

 具体的には,日々の診療を一緒にしているスタッフが鏡となるでしょう.私のクリニックでは,カルテに看護師と医師がともにコミュニケーションの内容を書き込みます.今は,電子カルテが広がっていますから,看護師と医師などが同じカルテ上で情報を共有することは今までよりも容易になっています.このカルテ内容から,患者の心配事が明らかになることも多くあります.医師の私よりはるかに身近にいる看護師に患者が病気の解釈モデルなどをポロリと打ち明けることもあるわけです.逆に,診療情報の中で,必要な事柄が記載されていない場合は,こちらから,看護師にフィードバックすることもあります.また,私の早口の癖については,看護師から指摘されることが本当に多くて反省しきりです.しかも私は身なりについては無頓着なほうなので,「髭の剃り残し」「髪の毛の寝癖」といった外観について受付や,看護師からフィードバックされることは本当に助かります.

 鏡の役割を果たしてくれる学生や研修医も重要です.私のクリニックでは,学生や研修医の実習・見学を受け入れていますが,彼らに,私のコミュニケーションスキルを観察してもらい,フィードバックをかけてもらっています.「先生,あの場面では,患者さんの話の腰を折っていましたよ」「先生,子どもさんとの診療には,もっと,かわいらしいグッズがあるといいですよ」など,いろいろ出てきて,私のスキルもまだまだと反省を重ねます.そのうえ,学生が診療を観察しているわけですから,こちらも適度の緊張感をもって,コミュニケーションスキルの7段階などのさまざまなスキルを意識しながら使用し,コミュニケーションスキルを「絵に描いた餅」にしないように試みることができます.

(つづきは本誌をご覧ください)