Editorial
“見逃してはならない”疾患が 「除外診断できない」 ポイント
徳田 安春
地域医療機能推進機構(JCHO)研修センター
 本特集号はシリーズのPart II である.それでも,内容は前号(本誌23巻7号)よりパワーアップさせた.総論は強化され,より踏み込んだ内容とした.各論(項目)も重要な症候群から厳選したので,さらに実践向きとなった.

 さて,このエディトリアルではあえて,“見逃してはならない”疾患がどんな時に「除外診断できない」かについての,「陥りやすいピットフォールのポイント」を整理しておく(表1).これを理解し,かつ厳重に暗記することにより,本書の総論と各論の内容理解が深まり,現場での診断エラーリスクを最小限にすることができるであろう.

 表1のように,「典型的な所見がない」ことは意外に除外診断には「使えない」ことがわかる.これらの知見はあまり教科書に書かれていないし,国家試験にも出ない.しかしこれらを知っておくことは,臨床現場の「地雷探知機」としてたいへん重要である.

 では,“見逃してはならない”疾患の除外ポイントPart II を,さっそく見てみよう!

文献
1) Amal Mattu, et al : Emergency medicine ; Avoiding the pitfalls and improving the outcomes. BMJ Books, London UK, 2007.
表1 陥りやすいピットフォールのポイント
症状 見逃してはならない疾患 除外できないポイント(ピットフォール)
胸痛 急性心筋梗塞 胸壁に圧痛がある
心窩部に圧痛がある
制酸剤で軽快する
来院時心電図が正常
来院時トロポニンが正常
大動脈解離 胸部単純X線写真が正常
胸部単純CTが正常
上肢血圧に左右差なし
食道破裂 先行する嘔吐がない
呼吸困難 換気不全 SpO2が正常
肺塞栓 血液ガス分析結果が正常
SpO2が正常
肺塞栓(中~高可能性) Dダイマーが正常*1
腹痛 急性胆嚢炎 発熱がない
肝胆道系酵素の上昇がない
急性虫垂炎 発熱がない
右下腹部痛ではない
白血球増多症がない
大動脈瘤切迫破裂 ショックバイタルではない
触診で拍動性腫瘤が触れない
腸閉塞絞扼 腹部造影CTで腸管の造影不良がない
症状 見逃してはならない疾患 除外できないポイント(ピットフォール)
腰背部痛 脊椎硬膜外血腫 腰部単純X線写真が正常
腰部CTが正常
脊椎硬膜外膿瘍 腰部単純X線写真が正常
腰部CTが正常
白血球増多症がない
化膿性脊椎炎 腰部単純X線写真が正常
白血球増多症がない
発熱がない
頭痛 急性髄膜炎 項部硬直がない
Kernig徴候がない
発熱がない
くも膜下出血 頭部CTが正常
項部硬直がない
関節痛 関節リウマチ 大関節優位の関節炎
下肢腫脹 深部静脈血栓症 Homan徴候がない
発熱 感染性心内膜炎 心雑音がない
末梢サイン(オスラー徴候など)がない
SIRS*2がない
敗血症 体温が正常
CRPが正常
*1 低可能性の肺塞栓では除外可能
*2 systemic inflammatory response syndrome