Editorial

ノーモア見逃し!
徳田安春
臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄

 テクノロジーの発達でさまざまな検体検査や画像検査が開発され、臨床現場に導入されるようになりました。お陰でより正確で、より早期の診断が可能になった一方で、検査や画像には「落とし穴」も潜んでいます。ターゲットとする疾患や病態への感度・特異度の低さ、検査タイミングのズレによる正確度低下、読影担当者ファクターによる見逃し、誰にでも見逃されやすい所見など、検査や所見に付随するさまざまな要因からのトラブルが、現場で散見されています。

 そこで、現場の医療者が、検査や画像の限界についての確かな知識と最新のエビデンスを得て、日常検査と画像に潜むピットフォールに陥らないように、今回「ノーモア見逃し!」の特集を企画しました。現場の医師が検査をうまく活用できるようになり、患者安全と医療の質向上に役に立つ企画となれば幸いです。

 さて、検査のピットフォールの1例として、ここでビタミンDについてみてみましょう。まず、意外にビタミンD欠乏が多いことがわかっています。日光曝露の少ない人でリスクが高くなります。これは、緯度の高い地域でよくみられますが、赤道直下地域でも室内での生活のみの人々ではリスクがあります。ビタミンD欠乏があるかどうかをみるには、血清中の25ヒドロキシビタミンD濃度を測定します。この濃度が体内のビタミンD貯蔵状態を反映するからです。専門家集団のコンセンサスによると、20ng/mL(50nmol/L)未満で欠乏とみなします1)

 しかし、人によりこの濃度が30~40ng/mL程度へ低下すると、副甲状腺ホルモン分泌が増加します。また、人により21~29ng/mLより高くなると、腸管からのCa吸収が増加します。このことから、30未満から20ng/mLまでは「相対的に欠乏」状態であると考えられています。

 一方、サプリメントブームや骨粗鬆症治療のために、ビタミンD過剰内服ケースでの高カルシウム血症が最近増えています。その場合、血清中の25ヒドロキシビタミンD濃度が150ng/mLを超えているかで判断します。

 高カルシウム血症の鑑別診断には、サルコイドーシスや結核などの肉芽腫性疾患や悪性リンパ腫も含まれます。活性化されたマクロファージでのビタミンD産生が増加するために、血清Ca値が上がります。このような疾患を疑った場合に測定すべきは、1.25ジヒドロキシビタミンD濃度です。42pmol/L以上が異常高値とみなされます。また1.25ジヒドロキシビタミンD濃度は、副甲状腺ホルモン、血清Ca濃度、血清P濃度、そしてfibroblast growth factorの影響も受け、微妙な範囲内に調節されています。これは体内の貯蔵状態を反映しないのです。

 このように検査データを解釈する時には、病態生理や疫学・検査前確率を考慮して、検査項目を選択し、その値の解釈も慎重に行うべきです。よく、検査データをオーダーした時に帰ってくる結果の横に、「正常値」として示される範囲値があります。私はこれを正常値ではなく「基準値」と呼んでいます。あくまでも基準値として捉えて、1人ひとりの病態生理と疫学や検査前確率を考慮し、結果を判断すべきと思います。

 それでは、本特集「ノーモア見逃し!」をご堪能ください。

文献
 1)  Holick MF : Vitamin D deficiency. N Engl J Med 357 (3) : 266-281, 2007. [PMID]17634462