Editorial
漢方を日常診療にどう取り入れていくか?

山中 克郎
諏訪中央病院内科総合診療部

 漢方薬をよく処方する友人に聞くと,劇的な効果を示すことがあるという.私自身は下肢のけいれん性疼痛(こむらがえり)を訴える患者に処方する芍薬甘草湯〈シャクヤクカンゾウトウ〉以外は,未だに劇的効果の実感に乏しい.しかし,「漢方をもっと勉強したい!」という強い想いはある.だから最近は,風邪を引くのが少し楽しみでもある.葛根湯〈カッコントウ〉エキス製剤® をお湯で溶かし,チューブ入り生しょうがを少し入れてグイッと飲むと,翌朝には効果を実感することが確かにある.何とも不思議な心持ちである.そして,病状や時期に応じて葛根湯,小青竜湯〈ショウセイリュウトウ〉,補中益気湯〈ホチュウエッキトウ〉を試してみるのだ.

 本特集「こんな時は漢方でしょう!」は,漢方診療が得意で気心の知れる岡部竜吾先生に企画を手伝っていただいた.

 西洋医学教育を受けてきた私たちには,漢方の理論は難解である.エビデンスが十分とは言えない.しかし,プライマリ・ケア医が症状をもとに適切な漢方薬を選択し,西洋医学を補う治療ができないだろうかと思った.私のような漢方に不慣れな医師にも,「これは効く!」という使い方のコツを教えて欲しい,というのが希望であった.

 今回の講師陣は,野球に例えるならば「オールスター夢の球宴」ともいうべき超豪華なラインナップである.

 松田邦夫先生は日本漢方界の重鎮である.近世日本の良医たちが強調した医師の心得として,「病人の診察治療に際し,ただひたすら真心を尽くすことが医師の務めであり,医術上達の秘訣である」と述べられている.

 漢方名医である二宮文乃先生のコラム「漢方医としての生活の律し方─『次なる目標』を求めて励む」では,現在の診療に決して満足されることなく,「一歩でも前に進もう」という,臨床への熱き情熱が感じられる.学ぶのに年齢は関係ない(One is never too old to learn).

 超ベテラン医であるお二人の診療姿勢からは,古今東西,名医の必須条件とは,患者の苦しみに共感し,医師として技術を磨きながら,ひたすら真心を尽くすことなのだとわかる.

 岡部竜吾先生は「現代医学的診断をつけたうえで,漢方の適応を見極め,基本原則に則り治療する」「副作用を理解しておく」ことを強調されている.「実証(元気が良い,筋肉質)と虚証(疲れやすい,痩せ)」,「攻める薬と補う薬」の説明は,目からウロコだ.基本的に「虚証に対して補うタイプの薬,実証に対して攻めるタイプの薬」を用いるという.この辺りは,西洋医学的な発想とは少し異なる.西洋医学に有効な治療がある時は,それを用いればよい.漢方医療は西洋医学では解決ができない症状に対し,使われるべきものなのであろう.

 疾患別の各論では,漢方名医の皆様に「イチオシ処方」を紹介していただいた.具体的な症例が提示されている.西洋医学的身体所見との対比や処方の指標となる症候,治療経過について学ぶことができる.

 「ああ…漢方を適切に使えば,症状をもっと楽にすることができたのでは」と,今までに出会った患者のことが目に浮かぶ.