巻頭言
特集 データマネジメントで変わる病院

 病院には,社会保障制度改革の下,地域医療構想を策定する際に自院が地域で果たす役割を,データを基に主張することが求められている.この遂行には,正確で信頼できる病院のデータとそのマネジメントが不可欠である.では,各病院がデータマネジメントに取り組むためには何が必要だろうか.

 今号の対談では,副島秀久氏が「診療報酬に関わる医事データ」と「質管理指標などの医療データ」が病院経営の両輪として必要不可欠であると指摘した.この両輪という考え方は本特集に通底する.また,データマネジメントに通用する医療情報システムの整備が必須であるとし,「入力制御」が最重要課題であると指摘された.

 桐野論文では,「入力制御」に関して,データが正確であり,その形式や構造が標準化されていて,かつ検索可能な状態にする必要があること,ただし,従来の病院ごとに構築された電子カルテシステムでは不可能であることを指摘し,この課題を解決するための方式(SS-MIX2)について解説している.これにより,医療情報の標準化がいよいよ本格的に進むことが期待される.

 本野論文では,臨床プロセスと臨床コストの両面を評価することを可能とした(言うなれば「両輪」を連結する車軸の役割を果たす)DPC制度のデータマネジメントについて,田崎論文では,部分最適の要素である原価管理を取り上げて病院管理会計のデータマネジメント(車輪の一つの医事データ)について,岡本論文では,「臨床アウトカム」「財務アウトカム」「満足度アウトカム」の3つの視点をバランスよく向上させる医療の質評価指標を用いたデータマネジメント(もう一つの車輪である医療データ)について紹介してもらった.以上の対談と論文を読み解くことで,病院経営に必要なデータマネジメントの全体像を明瞭に把握することが可能となる.さらに,病院運営において忘れてはならないのが「医療安全推進」「看護の質向上」に関するデータマネジメントである.

 さて,これからの病院のデータマネジメントでは,自院のみにしか通用しないデータの蓄積では意味がなく,他院との比較が可能なデータとして蓄積し,かつ,開示することが求められる.今回の特集では,想像以上の速さで「標準化=ベストプラクティス=効率的な医療提供」の方程式を満たす制度・仕組みが整いつつあることが改めて確認できる.これは一朝一夕に達成できるほど容易ではないものの,もはやデータマネジメント抜きでは病院運営は不可能である.病院は変わらなければならない.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁