巻頭言
[特集]  地域創生に病院は貢献するか

 本特集企画の内容が決められた後もこの分野では国の矢継ぎ早の政策決定がなされ,ダイナミックな変化が起こりつつある.国は「地方創生」という言葉を使う.一方,われわれ「地域医療」に携わる医療者は「地域」という言葉になじみがある.本特集では,病院の視点から見るという意味で,敢えて「地域創生」という言葉を使わせていただく.

 医療界では,今年度から構想区域ごとに協議を開始する地域医療構想(ビジョン)策定が関心の中心にある.一方,国は「地方創生」を最重要課題の一つとし,「まち・ひと・しごと創生本部」(地方創生本部)を2014年9月に発足させた.2014年11月には「まち・ひと・しごと創生法」を制定し,各地方自治体においては,2015年度内に「地方人口ビジョン」および「地方版まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定が努力義務とされた.「地方人口ビジョン」および「地方版総合戦略」を策定した自治体には補助金が出るということで自治体の関心は地域医療構想策定より大きいといってもよいかもしれない.

 また,米国のCCRC ( Continuing Care Retirement Community )に倣い,爆発的に増える大都市部の高齢者を元気なうちに地方のコミュニティに移住させようとする「日本版CCRC構想有識者会議」が地方創生担当相の下に2015年2月組織された.本会議では本誌対談で登場いただいた増田寛也氏を議長とし,筆者も病院管理者の立場から委員として参加している.

 医療と産業のコラボレーション,あるいは医療の産業化という話題に関しては,国民皆保険制度の維持,混合診療などの視点から,根強い賛否両論が飛び交う.しかし,人口減と高齢化が地域の活力を削ぎつつある中で,地域創生の観点からの医療の貢献は,地域社会の一員としての病院が取り組む姿勢として,決して否定されるものではないだろう.

 地域創生には,全国1,700の自治体それぞれに,1,700の処方箋があるはずである.しかし,そこに必須なのはセイフティネットとしての医療であり,人づくりのための教育なのではないだろうか.魅力があるまちには,魅力ある医療と教育があるはずであろう.

 今回,本特集で,われわれ病院がこれまで,そしてこれから地域創生にどう関係し,どう関係していくべきか,地域にいかにアピールするかの一助として,さまざまな視点の論文と事例を執筆いただいた.これからの時代における地域を見据えた病院運営のヒントとしていただければ幸いである.

董仙会恵寿総合病院理事長 神野 正博