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病院 2010年9月号(69巻9号)巻頭言

特集
本格到来するDPC時代

池上 直己(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授)


 2003年度にDPCによる入院医療の包括払いを導入する際に,第1に包括払いに積極的な支払側と出来高払いを死守したい診療側の対立,第2に特定機能病院においても平均在院日数に最大2倍の格差が存在することによって示唆される標準化の遅れ,第3に短期間で分類の開発から報酬額の設定まで行わなければいけない厳しい日程,など様々な難題が立ちはだかっていた.これらの難題に対応するために,1万円以上の処置料などを出来高払いに残したうえで,入院期間によって4段階に逓減する1日当たりの包括払い,という日本独特の包括払いの仕組みが採用された.

 出来高払いとの相違をさらに少なくするために,当該病院の導入時における出来高払いによる報酬額と,DPCによる包括払いの報酬額の差額を,「調整係数」によって補償する制度が採用された.「調整係数」は病院の努力によって,入院の実コストが導入後に下がっても,基本的に変わらなかった.その結果,批判の対象となり,2010年度から段階的に廃止され,代わって機能評価係数IIが導入された.同係数は,高度な医療を提供することに対するP4P(Pay-for-performance)と見なすこともでき,DPC対象病院においても診療報酬による経済誘導が,どこまで有効に働くかを注意深く見守る必要があろう.

 さて,本特集はDPCによる支払いではなく,DPCの分類,およびDPC対象病院に対して提出が義務付けられている医療サービスや退院時のデータによって実現した医療の可視化の現状と今後の可能性を取り上げている.出来高払いの暦月単位のレセプト情報からは決して得られなかったデータを,当該病院においてだけでなく,国および地域単位,あるいは病院群単位に集積・分析することによって,各病院における医療の実態を的確に比較できるようになった.

 残念ながら,本特集の分析は研究班,あるいは個々の病院の努力に基づいており,国の制度的な対応は,一部のデータの羅列的な公表に留まっている.だが,加藤良平氏の論文で紹介されているように比較できる形ですでにアクセスすることが可能である.守秘義務は患者に対してはあっても,医療機関に対しては基本的にはないはずである.データの分析・公表に対する国の組織的な対応と,都道府県レベルおよび各病院レベルにおける活用に期待する.