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病院 2010年6月号(69巻6号)巻頭言

特集
災害と病院

神野 正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)


 国土ならびに国民の生命,身体および財産を災害から保護するため,1961年の伊勢湾台風を契機に,災害基本法が制定された.以後防災に国や地方自治体がその責任として,積極的に関与し対応する体制が敷かれてきた.

 しかし,1995年1月の阪神・淡路大震災という都市型天災は防災に関する意識を変え,組織の危機管理体制の重要性に改めて大きな警鐘を鳴らした.そして,同年3月の地下鉄サリン事件という未曾有の都市型テロ災害の発生は,平和な国日本とてテロの恐怖から免れないということで,国民を,われわれ病院を震撼させた.さらにその後も大地震やそれに伴う津波,また風水害などの天災が内外各地で起き,加えて大規模事故,事件や紛争も起こらない年はないほど,内外で発生しているのである.これからも国際的な政情や地球温暖化が様々な災害を引き起こす可能性を孕んでいるといってよいかもしれないのである.

 このような15年の間に,災害医療には新たなる潮流が出現し,一般市民にまで急速に浸透していった.それは,トリアージの考え方であり,緊急展開部隊としてのDMAT(Disaster Medical Asistance Team)の設置であり,PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)の考え方であり,そして何よりも災害ボランティアが勃興してきたことであろう.

 これらの新しい潮流をも包括しても,病院は災害が発生した場合には,その援助の拠点となることには違いない.また,病院が被災した場合でも自らの医療機能の復旧とともに,地域における一次的な援助の拠点としての役回りを演じる必要がある.

 すなわち,病院は公私を問わず,国民の厚生をその設立の目的とする.国民の厚生が脅かされた時,私たち病院は何をすべきか? いかに連携し,役割分担すべきか? いかにリーダーシップを取るべきか? 病院はその社会的責任をどこまで担っていくべきなのか,今一度考えてみたい.