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病院 2008年6月号(67巻6号)

特集
人材不足をどう打開するか

猪口 雄二(寿康会病院理事長・院長)


 日本の20年後はどうなっているのだろうか.若年人口は減り続け,人員不足のため,電気・自動車などの生産業は国内における生産性を下げ,主たる生産拠点は,現状以上に国外に移ってしまうことが予想される.また,教育産業では,特に大学や専門学校の定員割れが起き,淘汰が加速するであろう.

 さて,医療・介護の世界はどうなっているのだろう.看護師・介護士不足は現在でも日本全体に存在する.そこに有病率が高く,介護を要する高齢者が倍増するのだから,現場の疲弊は火を見るより明らかである.特に介護士は若年層に敬遠されがちで,人材豊富な介護の現場など想像すらできない.また,医師の科別偏在も現在より進むと考えられ,救急・外科・産科・小児科などの医師はますます減ってしまう.

 人材不足を打開する方法の1つに,外国人就労者の招聘が考えられるが,言語の問題については,特に看護師の場合など,それを極めて困難なものにしている.立派な病院も介護施設もあるが,そこに働く人材がいない.そして,日本全体の医療・介護の質の低下,提供困難という姿が目に浮かんでしまう.近い将来の医療・介護,そして日本の姿に,夢を持ち続けることは不可能なのであろうか.

 その対策として,女性の出産・育児を日本全体がより暖かく包み出生数を上げること,労働意欲のある高齢者の労働市場を高めること,などは今でも推し進められる方法である.一方,日本全体では,世界トップレベルの産業育成を国策とすること,高齢者の海外移住推進,小児期からの英語教育の充実による国際化など,様々な方法があり得るが,多くの時間と資金が必要である.

 本特集では,法政大学佐野哲教授に「高齢社会における労働力と労働市場の変化」について執筆をお願いした.また,医療の現場を始め,医師,看護師,介護士の現状と対策について,多くの立場の方に執筆をお願いした.

 この特集により,人材不足に対する打開策を少しでも思い描くことができれば幸いである.