医学界新聞

2020.11.16



Medical Library 書評・新刊案内


Advance Care Planningのエビデンス
何がどこまでわかっているのか?

森 雅紀,森田 達也 著

《評者》木澤 義之(神戸大病院緩和支持治療科特命教授)

なぜか前向きで温かな気持ちになる,不思議なACPの本

 10月の爽やかな週末に,旅のお供として本書を持って出掛け,楽しく読破させていただきました。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の始まり,歴史,定義,エビデンス,最新の研究の動向を包括して学習できる良書だと感じました。

 本書には,著者である森雅紀先生(聖隷三方原病院緩和支持治療科)の,誠実で前向きなお人柄が溢れ出ています。ACPという重くなりがちな話題を,穏やかな気持ちで読むことができ,そして重要な研究は子細に検討され,著者とのインフォーマルなやり取り,豊富な臨床経験に基づきプラスアルファの情報が書き込まれています。著者の米国と日本での豊富な臨床経験と,書く力に基づいた記述は素晴らしく,特に英語に関して言えば,本書に出てくる複数のやりとり(例えばJoanne Lynn先生やRachelle Bernacki先生)の時には,実は私も同席していたのですが,アルコール(?)の影響も手伝って内容があやふやで,本書の記述を読んで「あぁ,それを話してたのかぁ」と思い至ることもあり,あらためて森先生の能力の高さと見識の深さに感銘を受けました。

 参考文献については若干がん領域に偏っている傾向はありますが,重要な文献がカバーされており,これだけ読んでおけばまずまず大丈夫,と言っていいのでは? と思いました。

 また,巻末の森先生と共同執筆者の森田達也先生の軽妙なやり取りも,実際に会議でお会いしたり,Web会議で話したりしているときのご様子がそのまま書かれている感じで,両先生の自由さと気質,リラックスしたコミュニケーション,学び合う姿勢,お互いに対する尊敬の気持ちが手にとるように感じられました。ここでは“雑談”と称し,「ACPって医療上のことだけでなく,人生全体のことなの?」「家族が反対していても,本当に患者の意思に従える?」など,ACPを巡る素朴な,でも大切な疑問が取り上げられています。お二人のやり取りを通じて,日頃抱えている疑問が解ける読者も多かろうと思います。

 特にACPの臨床や啓発普及に深く取り組みたいと思っていらっしゃる方,そして研究や発表を考えている方は必読と思います。私自身は,散漫になりがちだった雑多な知識が統合され,なぜか不思議に前向きで温かい気持ちになります。本にも心があるのだと,本当に不思議な気分です(森先生に心より感謝します,あ,森田先生にもね)。関係の皆様のご一読を心よりお薦めいたします。

B5・頁204 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04236-9


ウォーモルド内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術

Peter-John Wormald 原著
本間 明宏,中丸 裕爾 監訳
鈴木 正宣 訳者代表

《評者》丹生 健一(神戸大教授・耳鼻咽喉科頭頸部外科学)

平易な日本語に訳された鼻科手術のバイブル

 ついに,日本の多くの耳鼻咽喉科医が望んでいた本が出版された。

 言わずと知れた内視鏡下副鼻腔手術の世界的権威であり,現在のわが国の手術方法の原点と言っても過言ではない,P. J. Wormaldの著書『Endoscopic Sinus Surgery』の日本語訳版である。原著が素晴らしい本であることはわかっていたが,やはり英語なので完全には理解しにくかったという先生方にとって垂涎ものである。

 図や写真も含め原著第4版がそのまま翻訳された形となっているため,Wormaldの理論がじかに吸収でき,各セルの位置関係をCGで3次元的に再構成する,かの有名なBuilding Block Conceptのほか,Axillary flapアプローチや前頭洞の解剖や手術における国際分類についての理解が深まる。そして鼻腔手術や各副鼻腔の基本的な開放方法だけでなく,副鼻腔拡大手術や頭蓋底手術,副損傷の対処方法まで網羅されているため,これから鼻科手術を始める若い先生方のバイブルとしてはもちろん,すでに多くの手術を経験されている先生方の理論の確認やさらなる技術向上につながるだろう。また手術手技だけでなく,臨床解剖に基づく術前CTの読影方法や術後管理の方法まで,そこも教えてほしかったという内容が盛りだくさんである。

 手術動画に関しては近年の流行が取り入れられ,QRコードを読み取るタイプなので,スマートフォンで簡単に閲覧することができるのもうれしい。

 これだけ膨大な量の英文をここまで自然な日本語に翻訳してくださった,本間明宏先生をはじめとする北大耳鼻咽喉科・頭頸部外科の先生方に感謝と敬意を表するとともに,この本がより多くの耳鼻咽喉科医の先生方の本棚に並び,わが国全体の内視鏡下副鼻腔手術のレベルアップにつながることを切に願っている。

A4・頁328 定価:本体20,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04200-0


《ジェネラリストBOOKS》
子どものけいれん&頭痛診療

二木 良夫 著

《評者》安次嶺 馨(前・沖縄県立中部病院ハワイ大卒後 医学臨床研修事業団ディレクター)

簡潔明瞭,臨床に必要な小児神経診療のエッセンス

 著者はアメリカに15年間滞在した小児神経科医である。沖縄県立中部病院で3年間の卒後研修を受け,その後,国内の病院で勤務して卒後7年を経て渡米した。セントルイス小児病院,アラバマ小児病院,ボストン小児病院で小児神経科のフェローとして,著名な専門家の指導を受けた。

 ボストンでは,新生児神経学の泰斗J. J. Volpeの回診で学ぶという得難い体験をしている。また,優秀なフェローやレジデントたちのポイントをつかんだプレゼンテーションのうまさに感服したという。英語力の劣る外国人が米国人に認めてもらうためには,プレゼンテーションやディスカッションはシンプルにしてポイントを絞ることを,著者はボストンで学んだ。この習慣は日本での講演でも執筆でも,著者が実践しているスタイルであり,本書では「てんかん」「頭痛」という最もcommonな小児神経疾患の解説に,このことが如実に表れている。

◆この本の特色

 てんかんの分類や発作型についての説明から入るのではなく,まず救急室を訪れた症例を提示し,症状や発作の起こった背景を知る問診の重要性を説く。この本では多数の症例が示されるが,症例を重ねるごとに鑑別診断,検査,治療薬の実際へと進んでいき,てんかんや頭痛の全体像を把握できる。いわば,ベッドサイドティーチングを受けつつ,小児神経学を学ぶという実践的な学習効果を享受できる。

 全般的に,説明は簡潔明瞭である。簡潔すぎて,何か物足りない感じがして,これでよいのかと思うほどだ。元来,神経は生理,生化学,解剖学的知識が絡み,診断困難な病気が多く,敬遠したくなる。しかし著者は,小児科で見るcommon neurological diseasesは限られており,そこに十分な力を傾注し,まれな疾患は専門家に任せてよいという臨床医の立場を貫く。膨大な神経学の知識と診療経験を持つ著者が,あえて簡潔に子どものけいれんと頭痛にテーマを絞って書いた本書は,読む者の心にすっと入り,短時間のうちに,そのエッセンスを得ることができる。さらに詳しく知るためには,選び抜かれた文献に目を通せば,著者のめざす小児神経学の神髄に迫ることができる。

◆Clinical Pearls

 この本には,著者の経験から語られるclinical pearlsが随所にちりばめられている。その一部を紹介する。

・小児神経科医が主訴,診察所見の提示後に考えるのは,「病変はどこか」(局在診断)です。「局在診断とは,神経システムの中の,①大脳半球,②脳幹部,③脊髄,④末梢神経,⑤神経筋接合部,⑥筋肉のどこに病変があるかを診断することです」。「局在診断をせずに最初から鑑別診断を考えていくと,あまりにも鑑別診断のリストが広がりすぎてしまうのです」(p.138)。
・「目の前で患者がけいれんしているときは,ベテランの医師でも内心はドキドキしています。しかし,それは顔に出さず,落ち着いて(ふりでよいです)行動しましょう」(p.37)。
・「低血糖によるけいれんは,全身性と考えがちです。たとえ部分性のけいれんでも,鑑別診断に低血糖を忘れないことです」(p.31)。

 親しみやすいイラストが,さらに読者の理解を高めている。子どもを診る全ての医師に,この良書を薦めたい。

A5・頁162 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04278-9


回復期リハビリテーション病棟マニュアル

角田 亘 編
北原 崇真,佐藤 慎,岩戸 健一郎,中嶋 杏子 編集協力

《評者》澤田 辰徳(東京工科大准教授・作業療法学)

チーム医療の成熟と回復期リハの質と向上に資する一冊

 本書における読者への利益は大きく分けて2点あると考える。1点目はチーム医療の成熟への貢献である。医療制度の中に回復期リハビリテーション病棟が認可されてから20年ほど経過したが,その病床数およびかかわる医療職種は激増した。結果として,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士といったリハビリテーション職種のみならず,医師や看護師,社会福祉士などさまざまな医療関係者がリハビリテーションに携わるようになった。また,昨今の実績指数の導入により,効果的なリハビリテーションをいかに実施し,早期退院をめざすかについて拍車をかける形となった。これら一連の課題に関してはチーム医療としての成熟が必須である。良質なチーム医療には各職種の専門性をお互いに理解し,尊重した上で協働することが重要であるが,本書には医師の診断をはじめとしてリハビリテーション専門職はもちろんのこと,看護のケアや栄養に携わるまで至る所に各職種がなすべきことが記載されており,これらを網羅していることがうかがえる。

 2点目は題名にあるように,回復期リハビリテーションとしての質の向上である。評者は回復期リハビリテーション病棟の使命とは急性期を脱した対象者に対して地域生活をおくるための準備を集中的に行うものであると理解している。そのためには心身機能の回復のみならず退院後につながる生活支援をすることは必須である。本書は両者において記載されており,その内容は基本的な内容から栄養および訪問リハビリテーションまで多岐にわたり,広範囲に網羅されているといえよう。特に,評者の作業療法士という専門性から述べると,基本的なセルフケアのポイントから買い物や自動車運転といったIADLに至るまで広範囲に記載されていることは本書の守備範囲の広さを感じる。また,本書は実際の病院での取り組みをもとに一貫して記載されており,最後に症例報告が掲載されていることも読者の理解を深めるであろう。

 このように,本書は幅広い情報が網羅されており,多職種が協働的にかかわる回復期リハビリテーション病棟に勤務するものにとって,広く情報収集するには有用である書籍と思われる。

B6変型・頁424 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04247-5


基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版

中村 好一 著

《評者》坂本 史衣(聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー)

疫学がわかることの楽しさを実感したい全ての方へ

 著者紹介に高校の卒業アルバムの写真が使われている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で上京ができなかったために代用した,とある。本書の面白さはそこだけではない。表紙のデザインが電車の切符の鋏痕(きょうこん)である。鋏(はさみ)をパチパチならす駅員に毎日切符を切ってもらっていた評者にとっては非常に懐かしいが,本書の楽しさはそこだけではない。

 職業柄,再び話をCOVID-19に戻すが,今年はこの感染症にまつわるさまざまな数字が,表やグラフになり,もっともらしい解説を伴って,毎日毎日,新聞,テレビ,SNSなどで飽きるほど流れた。大量の論文もかつてない速度で発表された。それらのデータの多くは,真偽のほどはともかく,COVID-19のリスクの大きさや変化を測定したものである。

 COVID-19に限らず,感染対策にはリスクの測定がつきものである。なぜならリスクを測らない限り,感染対策が功を奏しているのかいないのかがわからないからである。リスクは過少評価しても,過剰評価してもいけない。なるべく正確に測り,その結果を,限界を含めて適正に評価する必要がある。そのためには世界共通のルールが必要である。そのルールが疫学である。ルールを知らずにデータを生み出せば,意図せず人を騙すことにつながりかねず,またルールを知らずにデータを読めば,騙される可能性が生じる。世間にCOVID-19に関する玉石混淆の情報が溢れかえり,多くの人がそれに踊らされた2020年ほど,疫学の重要性が示された年はないと言ってよいかもしれない。

 「疫学は難しそうだ」という初学者の方。ご心配なく。本書は非常にわかりやすい。初版から今回の第4版の発行に至る20年間,おそらく読みやすさやわかりやすさを追求しながら著者は改訂を重ねられたのだと思う。本書を読まれる方には,ぜひ本文だけでなく(本文でも十分に勉強にはなるのだが),欄外の注釈にも目を通すことをお勧めしたい。これを読むことで「原則=本文に関する筆者の考えや経験」を知ることができ,原則をより深く理解することができる。まずは原則を知りたいという方は,1回目は本文だけを読み,2回目には注釈も読む,という読み方もお勧めである。

 本書の内容には過不足がない。初学者のためのオールインワンである。読み終わってから,興味のある疾患のリスクを評価した論文を1本読んでみることをお勧めしたい。これまでぼんやりとしか理解していなかった研究デザイン,指標の意味や解釈の仕方がクリアになったと感じるだろう。論文に対するツッコミどころも見えるはずである。

 疫学が難しいと思うのは難しい本を読むからである。疫学がわかることの楽しさ,そしてその有難さを実感したい方には,ぜひ本書を手に取っていただければと思う。

A5・頁242 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04227-7

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