医学界新聞

2020.08.10



Medical Library 書評・新刊案内


不明熱・不明炎症レジデントマニュアル

國松 淳和 編

《評者》鈴木 富雄(大阪医大病院総合診療科科長)

「不明熱・不明炎症」を扱う全医師必携のバイブル

 この書の「序」は次の文章で始まる。

 不明熱の臨床はざっくりと次の2つの問題を内包しています。

① 発熱へのアプローチが不適切で,本来不明熱ではない発熱が「不明熱」とされる
② 本当の不明熱は文字通り原因が「不明」なため,臨床では未知の事柄への対処を強いられる

 不明熱の診療を向上させるには「基本と応用」を押さえることが必要です。

 「基本」というのは①に,「応用」は②に対応する力にそれぞれ相当します。

 この書は主に②に関して“expert opinion”を世に発信し続けていた編者が,気鋭の執筆陣と共に,今回は①,②の対処に関する記述を連結し,不明炎症(不明熱の定義には当てはまらないが持続する原因不明な炎症性病態)も含めて網羅した上で,臨床で実践しやすい形に編集したもので,コンパクトながらその実,全編480ページに及ぶ意欲作である。

 さて,この渾身の一冊に私たちはどのように対峙したらよいのであろうか?

 初学者であれば,日常診療の中で疑問を抱いたときに,目次や索引を利用して辞書のように使用してみることをまずはお勧めする。実践の中での問題意識を持って該当ページを読み込むことにより,不明な病態を解き明かす必要な知識が自然に身についてくる。目の前の症例に即して詳細な記述を照らし合わせ,先人たちの知見を自らの血肉にしていく,その過程こそが極めて大切なのだ。

 経験豊富な指導医であれば,ぜひ一度まとまった時間を見つけて,8章の「診断に結びつく重要な特殊臨床症候」の記述だけでもよいので,アンダーラインを引きながら通読していただきたい。今までの診療の中で経験的に感じていたことや,ある程度までつかめていたが確信が得られなかった臨床的感覚が論理的な根拠を持って言語化され,クリニカルパールとして落とし込める喜びを感じられることであろう。

 この書は多数の著者での執筆となっており,執筆者たちの臨床的背景により記述内容の厚みや焦点の当て方にそれぞれの個性が感じられるが,その中でも編者であり最も多くの項目を執筆している國松淳和医師の担当部分のニッチな味付けは際立っており,マニュアルとなったこの書の中にも國松節はしっかりと息づいている。

 「基本」と「応用」の絶妙なバランスの上に立ったこの一冊は,評者のような「クニマニア」(勝手に名付けてみました)のみならず,初学者からベテラン指導医まで,「不明熱・不明炎症」を扱う全ての医師にとって欠かすことのできない必携のバイブルとして,長く愛されるものになるであろう。

B6変型・頁498 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04201-7


臨床研究の教科書
研究デザインとデータ処理のポイント 第2版

川村 孝 著

《評者》岩田 健太郎(神戸大教授・感染症内科学)

推薦文「これは一読の価値がありまっせ」

 ぼくは臨床研究そのものの専門家ではなく,臨床研究の専門家の知見から学び,研究をしている一医者にすぎない。車を作ったり直したりする能力はまるでないが,運転はしている次第。だから本書を上から「批評する」資格はなく,本書を活用してきた読者の一人として「これは一読の価値がありまっせ」とオススメすることしかできない。よって,書評ではなく推薦文である。

 2016年に本書初版が出た時は,知人に薦められて買い求めた。内容もさることながら,文体が素晴らしいと思った。こういう比較が適切なのかは知らないが,しかし主観的にそう感じたので仕方がないから書くが,経済学者の森嶋通夫の本を読むようなクリスピーな文体だった。本当にこの領域の世界内を熟知している人が,しかし冗長な説明は全てそぎ落として要諦だけ読ませるような文体だ。今年,新しい第2版を読んでその意を新たにした。

 当時は気付かなかった点もある。長らく学生や研究者を教えていて,学習者がどこでつまずくのかよく熟知している文章だな,と感じたのだ。学習者は知らないのだが,教科書ではさらりと流されて困惑する体験。これを先回りして説明しているから理解しやすい。ROC曲線のreceiver operatorとは一体何のことか,少なくともぼくは本書を読むまで知らないままだった(p.54)。「疫学研究の反対語は質的研究である」(p.16)という一言にハッとさせられるのも(ハッとしません?)本書のエキサイティングなところである。単に臨床研究の種々の方法を解説するのみならず,その手法の強みや特徴を理解した上での活用法も示されている点もオモシロイと思った。傾向スコアの「方法」を解説する本は多々あるが,3000年の歴史を持つ漢方薬の薬効こそ傾向スコアを使うのがよい,という意見などはなるほどなー,と思わせる(p.188)。「(傾向スコアは)研究結果の一般化可能性(外的妥当性)はRCTより高い」(同)というシンプルな一文も深い,と思う。通常は,傾向スコアで研究したら,「さらなるRCTが必要だ」で〆るのが通例なのに……。

 本書を読んだ読者は「俺も臨床研究やってみようかな」と思うことだろう。臨床研究実践者は「そうか,この方法も使ってみたいな」と考えるかもしれない。ぼくは今回読了後,手段変数法を活用する研究ができないものか,と考えてみた(p.189)。まだ,思い付かない。なんか,面白い手段変数はないものか。

 勉強すればするほど,わからないことは増えていく。どの文献を当たっても答えが見いだせないことも多い。そこが臨床研究の出発点だ。診療を真面目にやればやるほど,研究をしたくなる。本書がそのとき手元にあれば,それはそれは心強い話なのである。

※森嶋通夫(1923-2004)…ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)名誉教授,阪大名誉教授

B5・頁286 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04237-6

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook