医学界新聞

小児・発達期摂食嚥下障害児(者)の食支援をサポートする

寄稿 金 志純,淺野 一恵

2020.02.24



【寄稿】

小児・発達期摂食嚥下障害児(者)の食支援をサポートする
KTバランスチャート小児版注釈の開発

金 志純(東京小児療育病院看護主任/摂食・嚥下障害看護認定看護師)
淺野 一恵(重症心身障害児・者施設つばさ静岡医務部長)


 小児にとって口から食べることは,栄養,口腔嚥下機能のみならず,感覚・運動,認知,食事動作,コミュニケーション,社会性などの発達をも促す重要な日常生活行動である。しかし,摂食嚥下に困難を伴う病児や発達期障害児(者)も少なくない。

 発達期にある病児においては,障害に重きが置かれやすく,口腔機能や嚥下という「要素」のみに注目し,実際の食べ物を使用しない間接訓練が長期に継続されがちである。そのため,リスク管理を踏まえた包括的評価に基づいて,多面的な食支援アプローチによる摂食訓練を段階的に行うことが小児においてはより重要である。

 そこで筆者らは,「KT(口から食べる)バランスチャート」(以下,KTBC)を小児・発達期摂食嚥下障害児(者)にも活用するための注釈作成に取り組んだ。本稿では,「小児版注釈」とその活用について紹介したい。

 なお小児版注釈は,日本摂食嚥下リハビリテーション学会が策定した「発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018」を踏まえ,十分な摂食嚥下機能を獲得していない発達期摂食嚥下障害者も成人とは異なった配慮が必要なため,対象に含めた。

KTBCと小児版注釈作成の経緯

 KTBCは,2015年に開発された口から食べ続けるための食支援に向けた13項目から成る包括的評価ツールである。項目の内訳は,①食べる意欲,②全身状態,③呼吸状態,④口腔状態,⑤認知機能(食事中),⑥咀嚼・送り込み,⑦嚥下,⑧姿勢・耐久性,⑨食事動作,⑩活動,⑪摂食状況レベル,⑫食物形態,⑬栄養である。各項目,「1点:かなり不良もしくは困難」から「5点:かなり良好」で評価し,レーダーチャートで表される。2017年には信頼性・妥当性が検証され,日本摂食嚥下リハビリテーション学会「摂食嚥下障害の評価2019」の中でも包括的評価ツールとして示された。また,KTBCは身体侵襲がなく,簡易的であるため,多職種で総合的に評価して,対応策を検討することができる。対象者の良好な点と不足な点を抽出した上で,変化や介入の成果が可視化できるツールにもなり得る。

 一方で,小児・発達期摂食嚥下障害児(者)を対象とする食事ケアは,発達段階や摂食嚥下機能のみならず,姿勢や運動,感覚的問題,介助方法など多面的な評価とケアが重要となる。しかし現状は,評価者により評価やケアの在り方が異なることが多い。そこで,障害があっても,強みを引き出すための包括的評価が重要であると考え,KTBCの小児版注釈の作成に取り組んだ。

KTBC小児版注釈の概要

 KTBC小児版注釈は2018年に,重症心身障害児者施設Aにおいて,経口にて食事を1日1回以上行う入所者62人を対象に行われた研究をもとに検討し,KTBC作成者である小山珠美氏の承諾を得て,小児・発達期摂食嚥下障害児(者)を対象とする評価指標とした。小児版注釈を加えたのは,評価時に発達の視点が特に必要と考えられる以下の3項目である()。

 KTバランスチャート評価基準【小児版注釈】(色字は注釈部分(クリックを拡大)

⑥咀嚼・送り込み:摂食嚥下の機能獲得過程を明記した。加えて,「摂食嚥下の異常パターン動作」や「感覚過敏」などの感覚的問題についても理解し,症状に対するアセスメントの要素として検討する視点が重要となる。

⑫食物形態:離乳食段階や「発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018」を取り入れた。具体的には,均一な形態であるまとまりペースト食(または離乳初期食)は,ゼリーやムース食相当の評価点2点(不良もしくは困難)とし,3点は不均一な形態であるまとまりマッシュ(または離乳中期食),4点は軟菜(または離乳後期食)とした。

⑬栄養:体重変化とBMIで総合評価する。体重変化は,18歳までは体重増加が通常となる評価指標を作成した。生後3ヵ月以上18歳未満を対象とし,日本小児内分泌学会提唱のBMIパーセンタイル曲線も参照する。BMIの年齢区分は, 乳幼児期の3ヵ月~1歳,1~2歳,3~5歳,6~10歳,11歳~18歳未満とした。6歳以降を2群に分けたのは,学童期・思春期は女子が9歳ごろから,男子が11歳ごろから第2次発育急進期を迎えるとされているためである。また,BMI標準値は,BMIパーセンタイル曲線の50~75パーセンタイル内に相関するよう設定した。

KTBC小児版注釈の活用方法

 KTBC小児版注釈を用いて介入した実際の症例で考えてみる。図1のように評価された症例では,「心身の医学的視点」の評価点が高く,⑬栄養の状態も良好だが,⑥咀嚼・送り込み不良による食事時間の延長,⑦嚥下における食物の咽頭残留,食事時の姿勢が不安定という⑧姿勢・耐久性などが課題であった。そこで,強みを生かしながら,発達を促す視点を取り入れた介入を行った。

図1  初回評価
評価点の高い「心身の医学的視点」での強みを生かしながら,食事中の認知を促す環境を整え,姿勢の安定を図り,食事介助方法を変更の上,食物形態の工夫を行い,改善を試みた。

 具体的には,⑤認知機能(食事中)を高めるために環境を整え,姿勢の安定を図って(⑧姿勢・耐久性),食事介助方法を変更し(⑨食事動作),⑫食物形態の工夫をご家族とともに調整した。その結果,口腔・嚥下機能の発達がみられるようになり,食物形態もステップアップすることができた。図2は5ヵ月後のKTBCである。変化がレーダーチャート上で可視化されている点に注目していただきたい。

図2 5ヵ月後の評価
初回評価(図1)と比較し,⑥⑦口腔・嚥下機能の発達が見られるようになり,⑫食物形態もステップアップした。

食支援にかかわる多職種連携に向けて

 KTBC小児版注釈は,食べることの機能的評価のみならず,ケアの在り方も示されるため,食事ケアの方向性の検討に活用できる。また,在宅や通園施設,支援学校においても活用が可能で,関係者が家族と連携し,強みやケア方法を共有することに役立つ。

 小児・発達期摂食嚥下障害児(者)の食支援にかかわる多職種に共通する評価ツールとして本注釈が広く活用され,口から食べる支援が充実することを期待している。

:本稿では「小児版注釈」を加えた項目のみを掲載。KTバランスチャート全文はhttp://www.igaku-shoin.co.jp/prd/03224よりダウンロードできます。


きむ・ちすん氏
2000年藍野学院短大看護学科卒。重症心身障害児(者)施設での勤務を経て,11年に摂食・嚥下障害看護認定看護師資格取得。13年日赤広島看護大ヒューマンケアリングセンター摂食・嚥下障害認定看護師教育課程専任教員,14年より現職。

あさの・かずえ氏
1995年信州大医学部卒。聖隷三方原病院で初期研修後,一般小児科,NICU,重症児施設勤務を経て,2005年より現職。日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員として「発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018」の策定に携わった。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook