医学界新聞

2020.02.17



Medical Library 書評・新刊案内


内科医に役立つ!
誰も教えてくれなかった尿検査のアドバンス活用術

上田 剛士 著

《評者》志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

計り知れない魅力的な尿の本

 本書の魅力は計り知れません。このデジタル時代に,尿所見というシンプルでどこかアナログで,しかしcost effectiveな臨床ツールを題材に一冊の本で勝負するというコンセプトが,後輩目線から見て痛快です。卒業年を拝見すると上田剛士先生は評者(2005年卒)より3年上の先輩ですが,このような先輩が総合診療業界を牽引されているということに勇気が湧きます。本書の魅力をいくつか具体例とともにピックアップしてみます。

 尿所見による腎組織像の予測(p.4)という項目(第1章)が,実は評者が一番好きな章となりました。腎病理の“予測”は病歴にも通じることです。一つの些細な情報からその全体像を想像して描くという想像力はAIには持てないといわれます。つい先日,AIと人間の診断思考比較のイベントで上田先生と同席させていただきました。そのときの上田先生との会話がフラッシュバックしたような錯覚を受けました。この「想像力」が,一つの情報から全体のスクリプトを描く臨床能力であり,それは病歴にとどまらず尿所見一つとっても同じ,ということをこの章は教えてくれると思います。

 上田先生の書籍を拝読していつも勉強になるのは「裏を取る習慣」です。キャリアの早期に,ある臨床的な事柄を,これはそんなものなのだ,と耳学問で得た場合,それが自分の中の常識になっていて,ふと振り返るときにその論拠は? と気付くことがあります。そのような場合はそれを逐一文献に当たってみることを怠らないように,というメッセージが本書のそこここに配置されています。その他,トリビア的でしかも役に立つ知識も満載で,例えば,妊娠の有無は尿中反応検査が一般的ですが,実は血液検査でもほぼ同じ診断特性がある,といった記載などは「へー!」でした(p.103)。

 巻末付録の「尿以外の検体への尿試験紙法の応用」一覧図は,このような形でのまとめを見たことがなかったので,このまま医局に貼ってもよいような素晴らしいページと思いました(p.165)。余談ですが個人的には,尿臭の章(第10章「この尿は臭う。何かあるぞ。」)で,猫尿臭のメチルクロトニルグリシンと3-メチルカプトヘキシルアセテートの違いに触れられていたところは日本ソムリエ協会会員としてはツボでした(p.68)。

 このように,尿をテーマに実用性と,尿所見というシンプルで奥深い学びが満載の一冊,ぜひお手に取っていただければと思います。

B5・頁176 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03954-3


誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた
感染症診療12の戦略 第2版

岸田 直樹 著

《評者》草場 鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長/北海道家庭医療学センター理事長)

日々の風邪診療を変える素晴らしい一冊

 風邪は毎日遭遇する大切な健康問題であるが,多忙な外来の中でその背後に広がる深みのある世界に思いをはせることはそう多くはない。本書はその風邪を入り口としながら,風邪,そして感染症の診かたを実にわかりやすく具体的に解説した素晴らしい良書である。

 第1章では当たり前に思える風邪を主症状ごとに分類し,そのアプローチを明確に説明していく。第2章では風邪として扱われやすい〈発熱+α〉の症状を症状ごとに分類し,同じくそこに隠れているさまざまな疾患について鑑別診断のポイントを強調しながら解説する。第3章では高齢化が進む日本で重要となる高齢者診療において,感染症治療のスタンダードがいかに変化するかに力点を置きながら,12の指針を示す。最後の第4章はインフルエンザ診療に特化したノウハウが語られる。

 いずれの章でも,感染症診療に関する豊富なエビデンスに加えて,著者自身の感染症診療の経験に基づく具体的かつ合理的なアドバイスが明確に示されているのが特徴であり,明日の診療から早速適応したいと思わせる情報が多い。また,親しみやすい語り口の中にも著者の葛藤を随所で感じられ,臨床医として共感できる部分も非常に多い。

 プライマリ・ケア診療に当たる全ての医師にとって,ぜひ手に取って通読し,診察室の手の届く所に置いてほしい書である。風邪診療に潜むもやもや感はきっと一掃され,むしろ知的好奇心を持ちながら「風邪」の患者を迎えることができるはずだ。

A5・頁336 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03963-5


《理学療法NAVI》
エキスパート直伝 運動器の機能破綻はこう診てこう治す[Web動画付]

福井 勉 編

《評者》吉尾 雅春(千里リハビリテーション病院副院長)

親切でユニークな工夫満載のエキスパートによる直伝書

 多くの方はご存じであろうと思うが,私は脳卒中に代表される中枢神経障害を持つ患者の理学療法を専門にしている。とはいえ,回復期リハビリテーション病棟のみで構成される病院に勤務していることから運動器に問題を持つ入院患者も相応に存在する。多重骨折や頭部外傷を伴う骨折例も多く,人工股関節では回復過程で難渋する事例が多い。その問題に直面したときに長年,札医大解剖学講座で学んださまざまな知識や思考過程が生かされている。

 運動器の障害を持つ患者の理学療法は脳卒中のそれとは比較にならないほど科学的であると受け止めているが,時に私には理解できないような説明がなされることがある。それは評価においても運動療法においても存在する。一番大きな原因として私自身に十分な経験がないことが挙げられる。書籍で矢印を用いて運動方向などが細かく図説されていてもリアルに理解することはかなり難しいことである。

 この直伝はそうそうたるエキスパートの理学療法士たちによるものであり,それらの内容には自ずと重みもある。確たる知識があって,患者を視て,観て,触って,診ているからこそ書ける内容であろう。とはいえ,微妙な力で細かい動きやタイミングを伴うような評価を文字や矢印で解説するには限界もある。いや,それは不可能であろう。それを一気に解決したのがQRコードおよびURLによるウェブ動画である。動画は76点にも及ぶ。冠のついた代表的な評価法はもちろんのこと,図解では限界がありそうな細かい動きやタイミングが実によくわかる。やはり動きは動きで説明したほうがよいということである。

 本書は11人のエキスパートの解説で構成されるが,そのタイトルが実にわかりやすい。決して難しい言葉を使わず,とても臨床的である。その著者を見ると納得,である。

 それぞれの章は症候の説明に始まり,機能解剖,機能破綻と構造破綻の関係性,どう評価するか,どう治療するか,という流れになっている。本書に登場するエキスパートの真骨頂は「機能破綻と構造破綻」の解説にある。ここの理解ができなければ,漫然とした理学療法もどきが日々繰り返されることになる。ここに注目,という項である。

 読者のための細かい工夫も多く見られる。重要な箇所には下線を施してあり,自ずと目が向く。また,「どう評価するか」という項では特に重要と思われる小見出しに[最重要]と付記してある。さらに,評価のまとめとして3項目程度の「評価ポイント」とエキスパートからのアドバイスが提示されている。

 「どう治療するか」の項はとてもユニークである。エキスパートなりに治療すべき項目を挙げて解説しているが,それぞれに[有効★],[技あり★★],[一本★★★]と表示して有効性や重要性を伝えようとしている。評価と同じように,ここでも治療ポイントとエキスパートからのアドバイスで締めくくっている。

 とても親切でユニークで読みやすく,それでいて臨床的で十分重みのある書籍に出合えた。

B5・頁184 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03835-5


Evidence Basedで考える 認知症リハビリテーション

田平 隆行,田中 寛之 編

《評者》澤田 辰徳(東京工科大准教授・作業療法学)

認知症リハの研究と臨床実践との架け橋となる良書

 本書はわが国の認知症作業療法領域を牽引する研究者である田平隆之氏,田中寛之氏を編者に迎えた良書である。編者らの認知症リハビリテーションに対する熱意が本書の節々に感じられる。

 本書の特筆すべき点は大きく2点あると考える。

 第一に,認知症のリハビリテーションについて国内外の多くの知見をもとに論述している点である。本書に記載があるように,認知症に対するリハビリテーションはこれまで主としてBPSDに対する非薬物療法として行われてきた。しかし,現場におけるその実践の効果は懐疑的に見られることも少なくなく,私自身もそう感じていた。本書の最大の貢献は,タイトルが示すとおり,「Evidence Based」の観点から,科学的に有用な認知症のリハビリテーションについて記載されていることにあると思う。システマティックレビューやメタアナリシスにとどまらず,時にはケーススタディに至るまで,最新の知見を踏まえて構築されており,その構成は革新的といえる。さらに,単なる有用な評価やアプローチ法を羅列するのみならず,科学的にエビデンスが構築されていない分野に対しても言及されているため,臨床実践者だけでなく研究者においても有用な書といえるだろう。

 特筆すべき点の2つ目として,認知症のリハビリテーションについて包括的に解説している点が挙げられる。認知症の種別における症状はもちろんのこと,重症度に合わせた評価やアプローチについても詳述されており,その対象は認知症罹患者本人だけでなく家族や環境にまで及ぶ。リハビリテーションアプローチの範疇も広く,昔から知られている回想法などの認知刺激療法や音楽療法から,Simulated Presence Therapyや栄養指導に至るまで多岐にわたる。これらは若手の実践者のみならず熟練者においても活用できるだろう。

 また,具体的な事例が紹介されているのも大事な点である。私は過去の指導経験から,学術論文から臨床実践を考えること,つまりエビデンスを実践に結び付けるには具体的事案や体験が必要であり,初学者の多くはそれが無いために壁にぶつかることが多いものと感じている。本書は最新の知見をベースにしながらも,事例の紹介を通して具体的な方法をしっかりと明示している。このことにより,臨床実践者が壁を乗り越えて理解を深め,実践していくことを促進できるものと思う。

 本書は編者らが狙う「研究と臨床の架け橋」として十二分の書籍となっており,認知症リハビリテーションに取り組む実践者および研究者や学生に手に取ってほしいと切に願う。

B5・頁312 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03923-9


《ジェネラリストBOOKS》
“問診力”で見逃さない神経症状

黒川 勝己,園生 雅弘 著

《評者》砂田 芳秀(川崎医大教授・神経内科学)

問診でここまでわかる!

 著者の黒川勝己先生は,園生雅弘先生の薫陶を受けた電気生理診断を専門とする脳神経内科専門医であるが,臨床現場では一貫して患者第一主義を貫き,自らgeneral neurologyを標榜しているように,そのオールラウンドな臨床能力には定評がある。学生への講義,研修医やかかりつけ医を対象とした彼の講演は大変わかりやすいと高く評価されている。本書は彼が1年にわたって『週刊医学界新聞』に連載し,好評を博した「“問診力”で見逃さない神経症状」というシリーズに総論を加え単行本としてまとめたものである。

 神経解剖の複雑さ,鑑別診断の多さ,神経診察の煩雑さの故だろうか,神経疾患の診療に苦手意識を持っている研修医やかかりつけ医は多い。本書はそのような方にぜひ一読してもらいたい。本書のユニークな特徴は,神経診察手技や症候学ではなく,問診の仕方にフォーカスしている点にある。頭痛,めまい,しびれ,一過性意識消失などの日常診療で遭遇することの多いコモンな神経症状を取り上げ,見逃してはいけない重篤な神経疾患の鑑別に役立つ,問診のポイントが実際の質問のせりふとともにわかりやすく解説されている。例えば,めまいを訴える患者に対して,「めまいの持続時間」に加え「顔のしびれ感」の有無を聴くことで,椎骨脳底動脈系のTIAを見逃さない。けいれん発作患者の診察に際して,目撃者から「発作中,目は開いていましたか」と聴くことで,てんかん発作を鑑別できる,など。知っているか否かで診療レベルに歴然とした差が出るようなポイントが述べられている。一読いただければ,明日から自信を持ってこうした症状の患者の診療に向き合えるようになるだろう。

 脳神経内科の名医というと,神経症候学の碩学や神経診察手技の名手のイメージを持つかもしれないが,最も大切なスキルは,問診でいかに重要な情報を収集するかということであり,これが「History is everything!」と言われるゆえんである。以前,共著者の園生先生直筆の外来診療録を拝見したことがあるが,細かい字でびっしりと病歴が記載されていて圧倒された。本書の中にも,問診で得られた詳細な情報がさりげなく記載されているが,徹底して問診にこだわる姿勢には私自身が多くのことを教えられた。非専門医だけでなく専門医にもお薦めしたい一冊である。

A5・頁150 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03679-5

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