医学界新聞

寄稿 藤本 侑大

2020.02.17



【視点】

救急・集中治療領域での作業療法士の役割とは

藤本 侑大(大阪国際がんセンターリハビリテーション科/作業療法士)


 救急・集中治療における治療法や周術期管理技術の向上により,重症患者の生存率は近年飛躍的に向上している。しかし,救急・集中治療領域の重症患者は,病態や生体侵襲,さまざまな薬剤,生命維持装置等の各種医療機器の使用によって,急性重症病態から回復した後の患者に発症する運動機能障害(intensive care unit-acquired weakness:ICU-AW)や,せん妄などの合併症が発生する可能性がある。また,救命治療が奏功し超急性期の病態を脱した後も,心身機能やQOL,社会生活能力が長期にわたり低下する集中治療後症候群(post-intensive care syndrome:PICS)と称される患者が,多数存在することが問題となっている。

 これら救急・集中治療に伴う問題を予防・改善する可能性として,早期リハビリテーションが注目されている。作業療法士も,その一翼を担うことが期待される1)

 救急・集中治療領域における作業療法実践については,欧米で長年にわたり実施されている。では,日本ではどうか。筆者らは本邦における救急・集中治療領域での作業療法士の介入の実態を明らかにするため,作業療法士が在職する救命救急センターを有する全国の施設にアンケート調査を実施した2)。対象260施設中90施設(回答率34.6%)から回答が得られ,78施設(86.7%)で作業療法士の介入を実施しているとの結果を得た。本邦においても重症患者に対する早期リハビリテーションとして作業療法が多数の施設で施行されており,その役割と意義が認識されている。ただ,救急・集中治療領域では専従制で理学療法士を配置している施設が増えているのに対し,作業療法士の専従配置は1施設にとどまっている現状も明らかになった。

 救急・集中治療領域での作業療法士の役割は,身体および精神機能の評価ならびに早期からの応用動作能力の回復を促し,ADLの自立を促すことである。そのために,作業療法士は医師の指示の下,重症患者に対して超急性期の段階から離床や心身機能訓練,ADL訓練,認知機能訓練,心理支持,アクティビティなどを他職種と協働しながら実施する1, 2)。その結果,せん妄の改善,鎮静薬使用の減量,心身機能の改善,ADLの拡大,QOLの改善,入院日数の短縮などが期待できる3)

 2018年度の診療報酬改定では,特定集中治療室管理料における早期離床・リハビリテーション加算が新設され,作業療法士もチームの一員として名を連ねる。他職種と協働しながら作業療法の専門性を発揮した介入によって,介入効果が高まるだろう。

 今後は,救急・集中治療領域における作業療法士の人員配置を充実させ,重症患者の回復支援を図るとともに,救急・集中治療領域における作業療法のエビデンスを本邦からさらに構築することが望まれる。

参考文献
1)藤本侑大,他.ICUにおける作業療法の有用性,方法,モニター,開始・中止基準.ICUとCCU .2018;42(3):165-171.
2)藤本侑大,他.救命救急センターにおける作業療法に関する全国調査.作業療法.2019;38(1):28-36.
3)藤本侑大,他.集中治療室に関連した作業療法実践に関するランダム化比較試験のシステマティック・レビュー.作業療法.2018;37(4):421-26.


ふじもと・ゆうだい氏
2012年兵庫医療大リハビリテーション学部卒。阪大病院,大阪府済生会千里病院(千里救命救急センター)を経て18年より現職。18年大阪教育大大学院教育学研究科修士課程修了。

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